第17話妹へのホットライン
好奇心は猫を殺すと言う言葉がある、それに対して人間を殺すのは好奇心ではなく退屈だろう。
暇だ……
そう、暇なのだ。
項も退屈だと世間でなにやらでかいことが起こらないかと不謹慎な期待さえ持ってしまう。
しかしそんな感情は数秒で吹き飛ぶ。
「お兄ちゃん! いい話があります!」
俺が死ぬのは多分大分後になるだろうなと何度目になったか分からない妹の台詞を聞いて自分の寿命に思いを馳せる。
はて、今日は何の話だろうか? この前はソシャゲで妹キャラが実装されたので出るまで引けと無理難題を押しつけられた、その前は妹が題材のマンガの連載を発見してアンケートハガキを書かされた、どうせその類いのお願いなのだろうとは思い当たる。
「で、その話での俺が被る金銭的なダメージはいくらだ?」
基本的にコイツは俺の貯金を食い潰そうとしている、とはいえ妹なのでそう邪険にもしないあたり俺も大概シスコンなのだろう。
「違いますよ! 今日はちゃんと私持ちですよ! なんでそんな疑うんですか!?」
「だってお前時間かお金を無心してばっかじゃねえか! 俺だって霞食べて生きてるわけじゃないんだぞ!」
妹は首を振って呆れたように答える。
「まるで私がお兄ちゃんの時間とお金を当てにしているような言い方ですね……私はいつもwin-winな提案しかしていませんよ?」
自信満々にそう言ってのけるが俺はこの前スマホのメッセンジャーに電話番号が登録されていたからとクラスの女子が入っていたのにキレて突然スマホを床にたたきつけたの覚えてるぞ。
「信用が無いんですね……まあいいでしょう。今日はお兄ちゃんにこれを渡しに来たんです!」
そう言って妹が差し出したのは何の変哲もないスマホ用プリペイドカードだった。
コイツガタダでくれるわけはないので当然警戒モードで対応する。
「で、何を頼みたいんだ?」
「いえ、この前スマホを壊したのはちょーーーーーっとだけ悪いことしたかなと思いました。で、お兄ちゃんには有料のメッセンジャーをこれで買ってもらおうかと思いまして」
「嫌別にいいぞ、まだ保証期間だったしそんな高くついたわけでもないから」
「お兄ちゃん! 私はお兄ちゃんとのホットラインが欲しいんです! 有象無象のクラスのグループで得体の知れない女の毒牙にかかってはいけないですから! 妹専用のメッセンジャーを入れましょうそうしましょう!」
要するに自分以外の登録がないアプリを入れて欲しいと言うことだろうか?
とはいえあまり家禽は好きでは無いんだがな……
「で、何のアプリを入れればいいんだ? 怪しいのは勘弁してくれよ?」
某国製のアプリを入れたら謎言語で迷惑電話がかかってきたトラウマが思い出される、あれは酷い目に遭った。
「はい! これです!」
なにやら鍵のマークをアイコンにしたアプリの購入画面が出ている。
なるほど、英語のアプリなので日本人はあまり使わないだろう、なにせ日本語じゃないので星一つとかいう評価もされるアプリ界で英語の身はハードルが高い。
「えーっと……運営は……スイス製か」
「ダメですか?」
少し逡巡してからアプリの評価もいいので構わないと結論を出す。
「いいぞ、ちなみに他に誰か登録したら?」
「スマホぶっ壊しますよ?」
ウチの妹は時々バイオレンスなので怖い……
前歴もあるので『言葉』だけではない迫力と重みがある。
俺はカードを受け取りコードをスキャンして登録する、クレジットが1500ポイント増えたのでそれで購入ボタンを押す。
「よしっと――入れたぞ、これ電話番号で登録するのか?」
「はい! これならお兄ちゃんも私以外と連絡を取ろうなどと言う不遜な考えを捨てていただけると思います!」
「えぇ……」
魔王直通のホットラインみたいなもんじゃねーか……
可愛ければ何でも許されるとでも……
「お兄ちゃん……他の女を登録したりしませんよね……?」
目を潤ませて懇願してくる妹にシスコンの俺が逆らえるはずもなくQRコードでのみフレンド追加を許可できる設定にされ当然自分の連絡先のアップロードは拒否を要求された。
まあ別にこのアプリはシェア自体が低いのでアップしようがしまいがフレンド登録はないと思うんだが念を入れてのことらしい。
「では、私からの連絡には五分以内に返事をお願いしますね! それと既読はちゃんとつくアプリなのでご心配なく」
どうやら監視面でまでアプリの選定に考慮したらしい、束縛系妹だなコイツ。
「分かった分かった、用事はこれだけか?」
「はい! お兄ちゃんへの謝罪の意を込めて魔法のカードを買ってきた甲斐があるというものですね!」
謝罪しているとは思えない態度で胸を張ってドヤっているが明らかに壊さなければいいだけの話なんだよなぁ……
それから数日、アプリには音声通話機能もありモーニングコールから授業の合間、寝る前までメッセージが絶えない日が続いた。
おはようからおやすみまでとはまさにこのことだなと思いつつ、もしかしたらこの妹は朝から晩までどころか『ゆりかごから墓場まで』のサポートなんじゃないだろうかという少し? 恐ろしい考えが頭に残るのだった。
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