第16話妹と兄の関係性

「お兄ちゃん! 旅に行きましょう!」


「なんだ急に……この時期は人が多いからめんどいんだが?」


 時は五月、世間ではゴールデンウィーク真っ只中だ。


「いえいえ! そういう返ってくる系の旅行ではなく旅です!」


 またなんかに影響されたか……巻き込まれるのは勘弁して欲しいんだが……


「何でまた急に? 旅物のドラマもラノベも最近無かったろ?」


 妹は分かってないなあといった風に説明する。


「私は思ったのですよ! そう! 私がお兄ちゃんと付き合えないのは兄妹だから! つまり誰も知らない場所に行けばそこはもうフリーダム!」


 相変わらずのむちゃくちゃな理論をゴリ押ししてくる妹、コイツ大丈夫か……?


「とりあえずその理論で行くと地域で兄妹かどうかって決まるのか?」


「世間体ですよ! せ・け・ん・て・い! ホラホラお兄ちゃんだって私ともっとイチャイチャしたいのに世間の目があるから我慢してるんでしょう?」


「いや……」


 妹の目が焦点を失う……しかし何故かとても視線が鋭い……怖い……


「はいそうです、いちゃいちゃしたいですねー」


「そうでしょうそうでしょう、世界のお兄ちゃんの九割は妹のことが好きだって言う統計がありますからね!」


 どんな統計だよ……『嘘、真っ赤な嘘、そして統計』という故人の言葉が思い出されるな……


「そこで! 人間関係を全てリセットして二人の新しい関係を作ろうという試みが『旅』なんですよ!」


「それただの駆け落ちじゃね?」


「別にいいじゃないですか! お兄ちゃんと駆け落ち! それはそれで非常にいいですね! グッドです!」


 ダメだコイツ……


「俺は駆け落ちはしないぞ」


 妹はほうと頷いて言う。


「なるほど……お兄ちゃんはストレートに認めてもらう方針ですか……漢ですね」


 何やら勝手に納得していらっしゃるようで……

 俺はスマホに目を落としてふと考える。


 もしも兄妹じゃ仲ったら……か。

「もし兄妹じゃなかったらお互い知り合うこともないんじゃないか?」


 コイツ可愛いし……多分俺とは関わらなかっただろう。

 もうすでにがっつり関わってしまったことにたらればは無意味であるがきっとこうして会えたのも何か意味があるのだろう……多分。


「それはダメですけど……多分私はお兄ちゃんが誰であっても出会ってたと思いますけどね?」


 そんな気はしないでもないがスルーしておく。


「兄妹だからこうして話してるんだろうな、きっと血の繋がりでも無きゃ関わってないだろ」


 妹はむぅ……と悩みつつもそれなりには納得したようで俺に宣言をして出て行った。


「お兄ちゃんは私のものですからね! 簡単に逃げられると思わないでくださいよ!」


「へいへい」


 宣言して妹は自室へ帰っていった。

 それから数日、俺は妹につきまとわれるのだった。

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