第14話妹とコーヒーを飲む
コポコポとコーヒーメーカーが音を立ててコーヒーをドリップしている。
そんな誰に邪魔されるわけでもない空間にいつものように妹はやってきた。
「お兄ちゃん! 勉強で分からないところがあるんですけど……」
「見せてみ?」
俺は妹のノートを手に取ると英語の問題を眺める。
これと言って難しい部分はないがまあコイツは国語極振りだからな、英語は苦手なんだろう。
「ここの主語は省略されてて……で、ここの関係代名詞が……」
ちゃちゃっと解法を教えると妹は満足したように笑顔を作った。
「ありがとね! お兄ちゃん!」
「ああ、別に構わんよこのくらい」
そこへコーヒーのドリップが終わったのだろう、香ばしい香りが漂ってきた。
「あ! お兄ちゃん私のためにコーヒー用意してくれてたんですか!? ありがとね!」
自分で飲むようだったのは伏せておこう、どのみちマグカップに配分くらいはドリップしたんだし一緒に飲むか。
「カップ持ってくるといい」
そう言うと妹はキッチンの方へとパタパタ出て行った。
俺はボールペンをマドラー代わりにしているマグカップを机から持ってきて注ぐ。
心地いい香りである。
以前コーヒーをキーボードにこぼしてからPCデスクの上では液体を飲まないようにしている。
マグカップをローテーブルに置くと丁度妹が帰ってきた。
「ただいま!」
「はいはい、おかえり」
俺は妹のファンシーなマグカップを受け取りコーヒーを注ぐ。
サイフォンで入れたことはないが普通のドリップで十分満足している。
妹の前にカップを置くと不満げな顔をしていた。
「どした?」
「お兄ちゃん! いくらなんでもボールペンでコーヒーを混ぜるのはお行儀が悪いと思います!」
まあ正論である、確かにボールペンはコーヒーをかき回す道具ではない。
「まあいいじゃないか、砂糖もミルクもしれないんだからべとつくわけじゃなし……」
「えっ……これブラックなんですか?」
砂糖くらいは入ってると思っていたのだろうか? 少なくとも部屋で使うコーヒーメーカーに砂糖の自動補充機能は無い。
「ああ、ブラックダメだったか?」
「い……いえ! せっかくお兄ちゃんが入れてくれたんですからありのままを飲みます!」
無理しなくても……と思ったときにはもうすでに口を付けていた。
「あれ? あんまり苦くないですね?」
「ああ、インスタントじゃないからな、あんま苦くないやつ選んでる」
コーヒー豆を買うときに重視するのは酸味と苦味が少ないものだ、苦くても酸っぱくてもおいしいとは思えない。
「飲めますねえ……ふぇ……」
なんだか妹の目の焦点がおかしい、目がとろんとしている。
「おにいちゃーん! もっとわたしにかまってくださいよぉ……できればいっせんをこえましょうよー……ヒック」
コイツカフェイン酔いするのか……しかもかなり弱いようだ。
俺は目を覚ますためにコーヒーを飲むことが多いのでカフェインが多いやつを選んでいる、どうもそれが災いしたらしい。
「お兄ちゃん! ちゃんと私の目を見てください! できれば一生養って!」
もうめちゃくちゃなことを言い出す妹をどうしたものかと考える。
「ほら、とりあえず横になってろ」
俺は部屋のベッドに寝かせると妹はスースーと寝息をたてだした。
カフェインは眠気を取るというのは人によるんだろう。
そうしてしばらく、俺はコーヒーを飲みながら電子書籍を読む。
静寂がひとときを満たし世界に二人しかおらず一人は眠りの中にいるような気さえする。
いくらくらい経っただろうか、数時間で妹は目を覚ました。
「は!? お兄ちゃん! 私何をされたんですか!? コレはもう責任を取ってもらう必要がありますね!」
「何も無い、後お前コーヒー飲まない方がいいぞ、ものすごく酔ってた」
俺がそう言うと妹は絶望的な顔で……
「え!? この状況で何もされてない? そんなことがあるわけが……」
そう言って衣服の乱れを確認し来たときのままであることが分かるとがっかりして言った。
「お兄ちゃん、せっかく可愛い妹が酔ったんですよ、そこは介抱と称してあれこれするものですよ!」
何故か俺が怒られた。
それからしばらく、妹が来るときは電気ケトルと紅茶のティーバッグを準備する羽目になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます