第12話妹は創作活動がしたい

「兄さん、どうじんし……ってどう書くんですか?」


 その言葉に俺は飲んでいた牛乳を吹き出した。


「ははえ? え? なんだって!? 何を書くって?」


 俺の動揺っぷりに逆に驚いて心配をしてくる。


「兄さん大丈夫ですか!? いえどうじんしはオタクの嗜みだと学校で言われたので……兄さんなら知ってるかなと……?」


「いや……うん……知ってるけどさ……別に全員が書いてるわけじゃないぞ」


「そうなんですか? オタクなんて承認欲求お化けだからなんか書いたり動画にしたり歌ったりしてネット活動してるって友達が……」


 落ち着け……同人誌……そう同人誌はあくまでファンが好き好んで書く(描く)冊子のこと……別にあれやこれの薄い本を刺しているわけではない……多分。


「確かに俺はオタクだが承認欲求お化けではないしよく分からん」


「俺は」書いてなし嘘は言ってない、世の中のオタクの大半がTwitter芸をやったりYouTuberと言うわけではない、ただ知り合いにちょーっとだけそっち方面に踏み込んだやつがいるだけだ。


「では兄さん! 私と一緒にどうじんしを作りましょう!」


「無理」


 即答した、いやいや創作とか無理ですよ……ええ……

 そりゃあ薄いほんの一冊や二冊持っていないわけでな……


「と、とにかく! おれはそう言うのには関わらんぞ」


 見たもん! 人間関係が壊れていく様を! リアルに!

 アレはこの世の地獄だった……


「だいたいなんで突然同人誌なんて作ろうと思ったんだ?」


「はい、兄さんの部屋からこっそりライトノベルを借りて読んでいて気付いたのですが……」


「ちょっと待て! 俺が貸した事ってあったっけ?」


「ですからこっそりですよ、ちゃんと返却してたじゃないですか?」


 この子怖い……え……なに……俺の部屋はパブリックスペースなの?


「まあいいや……で、気に入ったのでもあったのか?」


 同人誌なんて気に入った作品があったから作るものだしな、電子書籍も多いとは言え紙ベースのラノベも俺の部屋には結構ある、一つくらい刺さるものがあったのだろう。


「いえ、無かったんです」


「は?」


 素で聞き返した、え? 無かった?


「確かに兄さんの部屋にはたくさんの本がありました、でも妹がヒロインでちゃんと妹エンドになる作品はありませんでした……そこで思ったのです! 無ければ書けばいいと!」


「いろいろ言いたいことはあるがちょっと待て、妹エンドの作品はちゃんと合ったぞ、読んでないだけだろ?」


「いいえ、兄さんの部屋にある本は『都合よく』実は血が繋がってないとか『妹的』ヒロインとか邪道ばかりでした! 妹なら実妹一択でしょう? 都合よく血が繋がってないなんて認められません!」


 なにやらめちゃくちゃを言う妹に頭が痛くなりつつ言う。


「しょうがないだろ! 一般向けしか持ってないんだよ! レギュレーションがそうなってんだよ!」


 ラノベ界の神『出版社』の都合によって実妹エンドはアウトとなっている……んだと思う……


「兄さんには二つの選択肢があります!」


「二つしか無いのか……」


 妹はノリノリで俺に選択を迫る。


「一つ! 私と一緒に妹モノの同人誌を作る! あ! もちろん実妹ものですよ!」


 頭が痛い、何を言ってるんだコイツは……


「もう一つは?」


「私と同人誌的な行動をしましょう! 私的にはバーチャルでもリアルでも行けるので全然こっちでもオッケーですよ!」


 ロクな選択肢がないな……クソゲー特有の一択なのに選択肢が表示されている場面が思い浮かんだ。


「そもそも同人誌ってどんなものか分かってるのか?」


「基本的にあれやこれをやっても自由だと聞きました! 言論の自由って素晴らしいですね!」


 言論の自由はこういうことのためのものなのだろうか……?


 そもそも言論とは……?


「同人誌作るのめんどいし二択目の方にする」


「え? ホントですか兄さん? ではいずれ二人で同棲をしつつ公言できないような関係になっていただけると!?」


「いやそこまでは……いいとこデートだろう?」


 ふむ……と妹は長考モードに入る、正直今すぐ逃げたかった。


「まあそれもいいですね! いずれ後々のことは考えるとしてとりあえず手近なところで済ませましょう!」


 こうして俺の週末はギチギチに詰められたデートスケジュールで埋まったのだった……

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