第11話妹は文通をしたいようです

――拝啓親愛なるお兄ちゃんへ


 その手紙はそう書きだしてあった。

 

――この手紙を見る頃には私という存在の大切さに気付いているでしょう


 そう……書いてある。


 ちなみにだが、妹は現在隣の部屋にいる。

 いやなんでこんな手紙を読んでいるかと言えば妹が「お兄ちゃん! 文通しましょう!」

 と言う思いつきで始まったことだ。


 なおこの手紙の八割方は妹という存在の特別さとかかわいさについて書いてある。

 自分にそれだけ自信が持てればたいしたもんだ。


 この文通のルールは手紙が届いて三日以内に返事を家のポストに入れておくことだ。

 直接手渡しでも良い気がするが本人曰く「もっと情緒を感じたいじゃないですか!」

 だそうだ。


 この情緒感の欠片もない手紙を見てどんな返事を書こうか考える。


 妹から届いた手紙に書いてあったことは常日頃から堂々と主張していることである、わざわざ手紙にする必要性は感じられないが……


 俺は万年筆を指でクルクルさせながら悩んでいる。

 妹曰くたいした金額ではないから上げる、だそうだ。


 確かにプラ製でありそれほど高いものではないのだろうビビッドな黄色をしている。


――親愛なる俺の妹へ


 書き出しはまあこんなもんだろう英語でdear○○と書くのと同じにあわせる。


――敬具


 なんとか書き終えた。

 当たり障りのない内用をひねり出すのは脳を酷使することがよく分かった。


 これがラブレターなら文面に気を遣いまくるところだが毎日顔をつきあわせている妹なので書くことが無い。

 一枚書き終えたので封筒に入れて自宅のポストに放り込んでおく、こういうのが「雰囲気」らしい。


 翌日、ポストを開けると妹からの手紙ら着物が入っていた、なぜ「らしき」かと言えばそれがマンガのコミックスくらいの厚みがあったからだ。


 ぴりぴりと封を開ける、そこにはびっしりと文字の書かれた手紙が入っていた。

 えぇ……これ一日で書いたの? 怖いわー……


 読むのは困難を極めたが要約すると「私がお兄ちゃんをいかに愛しているか」と「お兄ちゃんの手紙は薄すぎます」とのことが延々と書き連ねてあった。


 俺は流石にこの量を書くのは不可能なので妹の部屋に相談に行くことにした。


 コンコンとノックをする。

「はーい」


 妹が出てきたその顔を見て残念な美少女が本当に存在するんだなぁとしみじみ思う。


「お兄ちゃん! 読んでくれましたか? 私の超力作!」


「いや、うん……読んだけど同じような返事は無理だぞ」


 妹は不服そうだったが無理なもんは無理だ、現代文の成績がどうこうというレベルでは手に負えない量だからな。


「じゃあ……『愛してる』の一文でも良いですよ? お兄ちゃんの手紙には愛が足りないんですよ! 愛が!」


「愛ねぇ……」


「そうです! あまねく兄というのは妹を愛するようになっているんです! 口にできないことなら文章でと思って始めたんじゃないですか! もっと自分に正直になってください!」


 妹に一気にまくしたてられてどうしたものかと考えていたところひらめいた……あまり欲はないのだろうがその場しのぎにはなる。


「いや、俺にも考えがあってな……愛や恋は文章じゃなく言葉にするべきだと思うんだよ」


 情に訴える作戦だ後のことは考えてない。


「ふへへへ……そうですか……愛ですか……つまりお兄ちゃんは私と結婚したいと……」


 なんか不気味な笑い方をする妹にダメ押しで一言言う。


「大好きだぞ」


「ほにゅああああああ!!!!! お兄ちゃんがデレたーーーーーーーー!!!!!!」


「じゃあそういうことで」


 その夜、妹の部屋からの高笑いや奇声で俺はろくに寝ることがデキなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る