第8話妹はPCを作りたいようです

「お兄ちゃん! パソコンの作り方教えてください」


 妹が突然何かを思い立つのはいつものことだが今日はことさらに唐突だった。


「またえらく突然だな……」


「ちゃーんと深い理由があるんですよ!」


「ちなみにその深い理由って?」


「パケット代かけずにお兄ちゃんと通信ができるんです! 完璧じゃないですか!」


 割とどうでもいい理由だった。

 ちなみにウチは限度はあるが従量課金のプランにしている。

 妹は月末に上限いっぱいまで使ってヒーヒー言っている、しかも最低容量以上使った分はお小遣いから天引きだ。


「別にいいけど既製品かった方が楽だぞ」


 今時のPCは自作するより既製品かった方がスペックと値段のパフォーマンスがよいことがほとんどだ。


「お兄ちゃん自作してましたよね……その……少し部品を融通していただけると……」


 そういうことか……まあ使ってないパーツもあるしな、ちょっとわけてやるか。


「わけてやれるのはDDR3メモリとマザーとCPUくらいだな、ストレージは自分で買ってくれ、そうそう、キーボードとマウスはあるがあんまいい奴じゃないぞ」


「ダン○ダン○レボリューションが何の関係があるんです?」


 そこからか……そこからなのか……

 ちょっと不安になりながらもパーツの型名であることを教える。


「で、おかあさんが何の関係があるんでしょう?」


「マザーはマザーボードの略で……」


 結局一から十まで説明してしまった……


「で、私が買わなきゃ行けないのはなんですか?」


「グラボは内蔵でいいから最低限ディスプレイと、ケースと電源……は使ってないやつ使うか……CPUグリスとSSDくらいだな」


「ぐりす?」


「その辺は選んでやるから安心しろ」


 妹は嬉しそうに顔をほころばせる。


「じゃあじゃあお兄ちゃん一緒に買いにいってくれるんですか?」


「ああ、一人で行かせると変なの掴まされそうだしな」


 実際いいカモだろう、俺が店員なら全部盛りのスペックを提案する。


「デートだ! お兄ちゃんとデートだ!」


「そんないいもんじゃないと思うがなあ……」


 PCショップでのデートなんぞロマンスのカケラも存在しないと思うんですけどねえ……


――日曜日


「ここがPCショップですか……」


「ほら、買うもん買ってさっさと帰るぞ」


 欲しいものはたくさんあるが今回はある物に付け足すだけだからそんなに金はかからないだろう。


 俺はSSDの棚にテンションの高い妹を引っ張っていくと、どれがいいか希望を聞く。


「長く使えるやつと容量の大きいやつ、アホみたいに高いやつがあるがどれにする?」


 以前はMLCならまあ大丈夫と言われていたのが倍のQLCなどという寿命が心配になるSSDを売っているので技術の進歩には感心する。


「私はお兄ちゃんとの連絡が取れればいいんですけど?」


「んじゃMLCのこれでいいな、多少容量盛って256Gにしとけ」


 妹はそれを店員に頼んでケースから取り出してもらい加護に放り込む。

 HDDだったらたしなめるところだがSSDならあのくらいで壊れたりはしないだろう。


 あとディスプレイとグリスだな、グリスは俺の選んだ奴でいいだろう。


 俺は安めのシリコングリスをかごに入れておく、リテールクーラーでも十分冷えるやつだしコレで十分だろう。


 後はディスプレイか。


「どれにする?」


「コレってどれがいいんですか?」

 大量のディスプレイを前に妹がフリーズしている。


「ゲームとかしないなら一番安い奴でいいと思うぞ」


 妹は一番安いFHDのディスプレイを選んで俺に箱を渡す。俺の役目は荷物持ちも兼ねているようだ。


 そして会計に行き妹様はデビットカードでさらりと支払う。

 コイツは金があるんならスマホでいいんじゃないかと思いつつ黙っておく。


――帰宅


 俺は使っていないもの一式を妹の部屋に持ち込んでいた。

 CPUはグリスを落としリテールファンの埃をダスターでとばすくらいのことはしておいた。


「それで……どう作っていけばいいんすか?」


「安心しろ、PCのコネクタなんて刺さるところにしか刺さらん。

 なおCPUはもう付けている、流石にLGAソケットをコイツに任せるのはちょっと不安だしな……


 そうしてしばらく試行錯誤したり、時々俺が助け船を出したりしつつ完成した。

 そして俺は大事なものを忘れてることに気付いた。


「やべえ、OSどうしよう……」


「え? OSってなんですか?」


「Windowsとかのことだよ……ライセンス余ってないんだよなあ……」


「その……ダウンロードできないんですか?」


「一応プロダクトキーだけ売ってるからそれ買ってイメージをダウンロードすれば使える……ただ結構な値段するぞ……」


 妹は胸を張って答えた。


「私を甘く見ないで欲しいですね! 他所の出費は覚悟の上です!」


 大丈夫かな? とは思いつつ通販サイトに登録してデビットカードでキーを購入させる、ここまではスマホでも大丈夫だ。

 しかしUSBメモリへのイメージ書き込みは俺のPCが必要なので部屋でさっさとかき込む。

 無事終わって組み上がったPCにさして起動させる。

 妹は完璧なものを作ったと自信満々のようだが俺は初回起動がいつも一番緊張する。


 ピコッ


 ビープ音がなって無事UEFIの設定画面が出てくる、一安心だ。

「これがWindowsですか?」

 妹がUEFIを見て言う。

「違うよここでPCの基礎設定をするんだ」


 俺はload optimize defaultをやって保存して再起動する、たいていの場合コレでなんとかなるから良い時代だ。


 Windowsの画面が表示されたので後はもうできるなと妹に任せて部屋へ帰った。

 アイツのカードの限度額がいくらなのだろう、今日も決行使ってたが……まあいいや、寝よう。


――翌日

「ふっふっふ、私はパソコンをマスターしましたよ!」


「さよか、まあはじめはそんな気がするよなあ……」

 俺は微笑ましい妹の言葉をさらりと流す。

 これでブラクラとかマルウェアに引っかかって泣きを見るまでが一セットである。


「手始めにお兄ちゃんの使っているメッセンジャーを入れました」


 おお、インストールで泣きつかなかったところを考えるとちゃんとできたんだろう。


――その日、メールとメッセンジャーを覚えた妹からは大量のメッセージが届き、俺は少しだけ後悔したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る