第6話妹とバブみと料理

「兄さん! もっとこう……甘えてください!」


 突然妹が訳の分かんないことを言い出す、いつものことなのでスルー。


「こうですね……兄さんはもう少し私にバブみを感じるべきなんですよ!」


「バブ……は?」


 いつもに増してぶっ飛んだ発想をしていらっしゃる妹を無視して食べかけの朝食に橋を延ばすと先回りして皿のソーセージを箸で取られた。


「はい! あ~ん!」


 俺は何をされているのだろうか? いや、確かにコイツはスタイルは女児で高校生にもなってツインテールをしている奴だ……で、バブみ?

「はい!」


 口元に箸をゴリ押ししてくるので渋々口を開く、ぽいとソーセージが放り込まれて肉の味が口を満たす。


「なあ……バブみってなんだ?」


「兄さん……知らないんですか? オタクなのに?」


「オオオ……オタクちゃうわ!」


 思い切り動揺する、いやオタクではあるんだけどね、直球で聞かれると一応否定したくなるじゃん。


「バブみというのは年下に母性を求めることですよ! なかなかいい発想じゃないですか! 私は年下! そして母性バッチリ! まさにバブみを感じるべきでは?」


 コイツに母性を感じないのだが……そもそも妹に母性を求める? 嘘だろ……

 どちらにせよそこに母性があるのか……俺は妹のささやかな胸をちらと見る。


「兄さん……なにやら失礼なことを考えませんでしたか? 邪な視線を感じるのですが」


「キノセイジャナイカナー」


 おっと、勘は鋭いな。

 俺はサッと目をそらし適当に流す。


「まあ、うん。お前はバブみって言うよりロリ枠だと思うぞ」


 がーんと驚いているが明らかにそっち方面の需要に期待した方がいいと思うんだがな……

「くっ! 兄さんに甘えてもらう計画が……早くも……頓挫……」


 何やらどこぞの中間管理職みたいな発言をする妹を眺めながらパクパクと食事を勧めていく。


「あ! そうだ! 兄さん、今日のお昼ご飯は私が作ります!」

「え……!」


 何やらまずい方向に話が進んでいる気がする、親の用意した朝食は問題ない、問題はコイツが料理している姿をついぞ見たことがついぞないことだ。


「私に任せてください! 大船に乗った気でいていいですよ!」


 自信満々だが……こういう場合は隠された才能を披露する場合と食べられないものを出してくるパターンしか思いつかない……


 ……数時間後


 トントン……コトコト……


 立ち入り禁止を言い渡されたキッチンからはえも言われぬ香り……いや匂いが漂ってくる。

 一言で言うなら「ルートビアみたいな匂い」だ。

 ちなみにうちにルートビアの在庫は無くどちらかと言えば湿布薬の匂いと言った方が正しいのかもしれない。


 ジュージュー

 何かが焼ける音が聞こえてくるんだが……何故かPCパーツを包んでいる黒いビニール袋を開けたときのような匂いが漂ってくる。


 そうしてしばらく後


「兄さん……できました!」


 ようやくキッチンへの入室許可が下りたので入ってみる。

 うおぅ……


 そこにあるのは味噌汁と焼き魚にご飯がついたごく普通の料理だった。


 意外とまともで安心しつつ席に着く。


「「いただきます」」


 二人で食事を開始する、匂いの不穏さが嘘のようにまともな見た目だが味は……


「うぉえっぷ……」


 ヤバイ……これはヤバイ……、何故焼き魚から咳止め薬の味がするのか……? 何故味噌汁がクリームソーダ味なのか……? 何故ご飯がスイッ○のROMカードの味がするのか……?


「なあ……味見したか……?」


「いいえ、私が作るものに不完全はないですから」


 コイツ素で作ったのか……

 俺は無理矢理食事を胃に流し込むと妹に言う。


「ちょっと腹が減ったんでお前の分もらうな」


 そう言ってさっさと妹の分の食事をかき込む。

 頭を動かすと胃の内容物が逆流しそうな状態で質問される。


「兄さん! そんなに私のご飯おいしかったですか!」


 俺は一言こう答えた。

「とっても上手いな、もったいないから人に作ってやるなよ」


「えっ……それってずっと俺の飯を作ってくれって意味ですか?」


「そうだな……うん」


 俺はこの生物兵器を他所に流出させるわけにはいかないと決意した。


 以降しばらく、食事は「恩返し」ということで俺が作る羽目になった。


 本人曰く「兄さんに作ってもらうというのもなかなか……いいですね!」

 とのことだ。


 俺の作った料理をおいしそうに食べている妹を見るのはそれなりに幸せだった……ああ……そうか……コイツもこの顔が見たくて頑張ったんだろうな……


 日常が続くことの幸せを感じながらこの有限な時間で妹と出会えたことを神に感謝するのだった。

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