第14話 怪物狂騒

 反対側の鉄格子の開く音が聞こえる。


 獣の唸り声が聞こえる。

 這いずる音が聞こえる。

 重いものを引きずる音が聞こえる。


 松明が揺らめき反対側から徐々に消えていく。


 闇が支配し、潜む者たちがよく見えない。


 足先から震えが頭のほうへと伝わってくる。


 腰の力が抜けていく。

 カチカチと歯が鳴る。

 アリアも震えているのが隣から伝わってくる。


「私は死なない! こんなところで死んでたまるか! 私は! 死なない!!」


 アシネットは何度も狂ったように叫び、コロシアムの壁際にあったまだ消えてない松明を手に取る。


「みんな! 私が引き付けるからできるだけ逃げて!」


アシネットは言い終えると否や闇にうごめくものたちに向かって走り出す。


「マリア! 早く!」


 アリアは最初に入ってきたほうへと走り出す。

 私はすぐには動けなかった。


 そんな私に向かってアリアはきつく言い放った。


「アシネットが命を懸けて時間を稼いでいるの! それを無駄にできない!」


 アリアは手を差し伸べる。

 できるだけ長く生き延びる、それがアシネットの覚悟に対する返答であろうか。


「ああああああああ!」


 闇のほうから悲痛な叫び声が聞こえてくる。

 それと同時にガリガリと骨や肉を齧るような音が聞こえる。


「寄るな! 死ね! 醜い化け物!」


 アシネットがその命を懸けて必死に抵抗している。


 別の悲鳴が聞こえてくる。

 化け物たちはアシネット以外の人も襲い始めていた。


 私は勇気を振り絞り振り返る。


 先頭付近にいた人たちはほぼ全滅だった。


 あるものは生きながら腹を食われ、あるものは犯され、あるものは四肢をもがれ、それをキャッチボールのように投げ合って遊んでいる。


 化け物は様々な種類が蠢き、ゴブリン、リザードマン、アンデット、スケルトン、ミノタウロス、ボアハウンドなどが見える。


「アリア!」


 私は恐怖で叫んでしまった。


「振り返らないで! 逃げることに集中して!」

「あっ!」


 情けない声とともに、足がもつれ転んでしまった。


 アリアが助け起こそうと私のところへ戻ろうとする。


 その瞬間アリアの身体が宙に舞う。

 何かがアリアをつかみ宙へと浮かす。


「かー! 隙あり!」


 あの醜い怪鳥だ。


 怪鳥はアリアとともに天井まで上がる。 

 かなりの高さだった。


 アリアは必死に抵抗している。


 ポタポタと血が落ちてくる。

 アリアの血だ。


 怪鳥の爪が喰いこんでいるのだろう。


「アリア!」


 観客席へと連れていかれるアリアを私は必死に追う。


 私は何とか観客席へと向かおうとするが壁は高くよじ登る凹みもない。


「アリアを離して!」

「いいよ!」

「えっ!」


 予想外の返事に意表を突かれる。


 パッと怪鳥はアリアを離す。

 アリアは短い悲鳴とともに観客席へと落下する。

 地面からかなり高かったためアリアは悲痛な叫び声をあげる。


 怪鳥は音程のずれた金切り声で高笑いをしている。


「アリア!無事!?」


 私はアリアに向かって叫ぶ。

 アリアは心配ないというように手を私に向かってひらひらと振る。


 その様子にほっとしたのもつかの間、怪鳥はアリアの少し離れたところに降りてきた。


「アリア逃げて!」


 アリアもすぐに気づき、怪鳥と距離をとろうと必死に這って進む。


 先ほどの落下で足をやられたのか、アリアは這いずりながら逃げる。


 怪鳥は弄ぶようにわざとゆっくりと後を追う。


 アリアが向かっているのは観客席にある扉のほうだ。


 そこから脱出することができるかもしれない。


 私はアリアが逃げ切れることを祈った。


 しかし無情にも怪鳥は弄ぶのをやめたのかアリアの身体に急に覆いかぶさった。


「痛い! やめて!」


 アリアの悲鳴が響く。


「ぎゃははははは! いい気味! 女! 俺に! 口答えした! いい気味! いい気味!」


 アリアは為す術もなく切り刻まれている。

 アリアの悲鳴がだんだんと弱くなっていく。


「や、やめて! アリア今、助けるから!」


 その時後ろから重量感のあるものが衝突し、私は簡単に吹き飛ばされる。

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