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「――そういうわけで、夕食だって呼びに行くのが遅れたんだ。ごめん」
かいつまんで夕餉前の出来事を伝えると、レスタは呆れたように肩をすくめた。
賑やかな晩餐の後、夜が更けてから窓伝いにアーキェルの寝室にやってきたレスタは、湯上りなのかほんの少し頬が赤い。何も湯浴みをした後に身体を動かさなくとも、とは思うが、なにぶん人目を避けるためなので仕方がない。
「それで? 成果は?」
「対竜結界は、城の隅々まで張り巡らされてるみたいだった。警備の人も、あちこち城内を巡回してる。多分、俺たちにもずっと貼りついてるだろうな。……レスタ、どうする?」
アーキェルは今日、あえて城の警備兵に剣を見せた。きっと今頃は領主にも話が伝わっているだろうが、問題はそこではない。
同じ懸念を抱くレスタが眉根を寄せ、唸るように呟く。
「どうするもこうするも、撒くわけにはいかないから、霊峰の手前の街でお引き取りいただくしかないでしょ。……着く前に、上手い言い訳をどうにか考えなくちゃね」
そのまま思考の海に沈んでいこうとするレスタを留めるように、それとなく水を向けてみる。
「そっちはどうだった?」
「うーん、めぼしい収穫はないかな。あ、龍の生態について記された手記がなかなか面白かったよ。参考になりそう。それよりも――この城、何かありそうだね」
レスタの口の端が、くっと吊り上がる。彼女が好奇心を刺激された時に浮かべる剣呑な笑みに、今までの数々の所業が蘇り、アーキェルの首筋を冷たいものが伝う。
この幼馴染は、こう見えて好奇心のためならば手段を選ばずに突き進むきらいがある。一応諭すつもりではあるが、はたしてどこまで聞き入れてくれるか――。
「……無茶するなよ。俺たちの目的はあくまでも、」
「龍退治。でしょ? ……ねえアーキェル、それよりも――楽しいこと、しよ?」
ひやひやしながら声をかけると、意外なことにレスタはあっさりと頷いた。
もうその話題には興味がない、と言わんばかりに蠱惑的な笑みを浮かべ、ゆっくりと懐に手を差し入れる。勿体ぶるような間を置いて、再び現れたレスタの手にあったのは、――
「いやだ。絶対勝てないことが目に見えてる」
即答すると、レスタはいかにも悲しげに俯いた。栗色の髪がはらりと肩にこぼれ、細い髪の隙間から、緑色の双眸が恨めしそうにちらちらと覗いている。
「……わたし、アーキェルがなかなか呼びに来てくれなかったせいで、前菜食べ損ねたんだけど?」
「それを引き合いに出すのは卑怯だろ……」
三回で終わりな、と不承不承
「やったあ! ……なんだかんだで、アーキェルって甘いよね~」
「余裕でいられるのも今の内だぞ」
「あれ? そう言ってわたしに勝てたこと、一度でもあった?」
「今日がその一回目だ」
「ふふーん、返り討ちにしてあげる」
結局いつもどおりレスタの口車に乗せられ、果敢に挑むも全敗という憂き目を見たアーキェルは、もう二度とレスタと
そうして、ひそやかに夜は更けて――翌々日の早朝。
夜明けとともに、二人は城を出立した。
――その道行きの先に、何が待ち受けているのかも、まだ知らず。
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