第2話

 彼女が死んで今日がちょうど四年目だ。僕は仕事から少し早めに帰ってきて、住んでいるマンションの扉を開けた。僕は彼女と暮らしていたマンションから引っ越していない。今でも部屋の中には彼女の着ていた服や化粧品などが残っている。僕は彼女が死んでから誰とも付き合っていない。僕は彼女を失い、そしてもうこれでいいのだと思った。僕はそこで自分の人生が終わったのだと思う。僕はただ毎日会社に出社し、与えられた仕事をできるだけ早くこなし、誰とも深く付き合わずに家に帰って過ごす生活を四年間続けていた。寂しくなった時は彼女の写真を眺めた。僕はどうして自分がそんな風になったのか自分でも理由がわからなかった。

 マンションの部屋の電気をつけて、エアコンのスイッチを入れる。僕はスーツを脱いで、洗面所に行き、服を脱いで、シャワーを浴びた。頭にお湯が当たっている間も死んだ彼女と過ごした時間を思い出していた。

 僕は風呂から出ると体をバスタオルで拭いて、服を着た。僕は冷蔵庫からビールを取り出し、椅子に座って飲んだ。

 アルコールで少し頭がぼんやりとする。僕はその時、ふいに視界に誰かがいることに気づく。玄関の方を向くとそこには彼女がいた。

 彼女は戸惑った表情で僕のことを見つめている。

「なんで?」

 僕は突然の出来事に驚いた。

「あれ? 祐君」

 彼女は案外なんでもなさそうだった。彼女は茶色のセーターに紺のジーンズを履いている。

「君は死んだはずじゃ?」

 僕は椅子から立ち上がった。

「え? 私死んだの?」

「どうしてここにいるんだ?」

 僕は玄関へ行って、彼女の体に触れた。温かみのある肉体だった。どうやら幽霊じゃないらしい。彼女はこめかみのあたりを触っている。

「私、記憶がないのよ」

「記憶が?」

「そう。さっきまで何をしていたのか思い出せない。気が付いたら玄関に立っていたわけ」

「君は自分が死んだ記憶はあるの?」

「あー。確かに病室にいたことは思い出せるわ」

 それから僕と彼女はテーブルに向き合って座り、事実を一つ一つ丁寧に確認しあった。

「やっぱり私死んでいるわね」

 彼女はなんでもなさそうにしている。彼女の肉体は健康そのものといった感じで、病気の時のやせ細った感じはない。

「いったい何が起きたんだ?」

 僕はこの非現実にどう向き合えばいいか考えていた。

「とりあえずお腹空いたわ」

 彼女は僕の飲んでいた缶ビールを飲み干した。


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