第4章 文化祭2日目
第1話① 幼なじみたちの一幕
7月5日。杜和祭二日目。
ピピピピ―――――
「ふわぁー……もう朝か……」
スマホにセットしたアラーム音で目が覚めた俺は大きく伸びをする。
時間はもう7時半。昨日色々ありすぎたせいか、バッチリ深い眠りについていたらしい。
だがまあ、今朝の俺は文化祭準備委員としての仕事はない。通常の始業時間に間に合えばOKだ。
いまだに鳴り続けている目覚ましを止めようとスマホに手を伸ばす。
すると、珍しく(うるさいぞ)LINEの通知音が鳴った。
『今日の朝ご飯、ブラックキャットで準備してるから! みんなでいっしょに食べよ!』
「……ったく、エリスは朝から元気だな」
俺はスマホを置いて着替えようと立ち上がる。
窓に映った非リア男のパッとしない顔はアホなくらい緩み切っていた。
×××
「……おはよーッス」
昨日は我ながらよほど体力的に疲れていたのか、いまだ睡魔の海から浮上しきれず、寝ぼけ眼のまま店の扉を開ける。
学校行事で精神的疲労(主にぼっちのため)に襲われたことは幾度もあるが、こういうケースは初めてだ。
「おっ、来たか悠斗」
……ん?
「おはよー、悠斗。はは、すっごく眠そうだね」
こいつらの声は……。
「恭也? 司も? え、なんで?」
早朝からの突然のエンカウントに一気に目が覚める。
「私が呼んだのよ」
厨房の奥から桐生が顔を出す。その手にはモーニングらしき食パンが乗った皿が。
「昨日はこっちに泊まったっていうからな。せっかくだし、久しぶりにお邪魔させてもらおうと思ったんだよ」
「ま、恭也には別の目的があるけどねー?」
「……うるさい」
ツンと顔を逸らす恭也に対し、司はニヤリとした笑みを浮かべながら、妹と一緒に朝食の準備をするこの店の看板娘に視線を向ける。
「あ、なるほど……」
皆まで言うまい。特に、昨日美夏さんの微妙な昔話を聞いてしまったからにはなおさらだ。こいつの脳が破壊されかねない。
「最初は夕飯に招待しようかと思ったんだけど。後夜祭や打ち上げもあるし、全員揃うのは難しそうだったから」
「ん? ああそうだな。特に桐生や恭也はあちこちから誘いがありそうだしな。あとエリスもか」
ま、俺は直帰するけどね、誰にも誘われないし、と自虐ジョークを続けようとしたところで、桐生は「はあぁぁぁ……」とこれみよがしに深いため息を吐いた。額に手を当てて首を横に振っている。
「なんだそのイヤミ満載のポーズは」
「ううん、せっかく気を遣ったのに台無しになりそうだったから頭が痛くなっただけ」
「は?」
なんじゃそりゃ。
「無駄だよ千秋姉。ずっと友達も彼女もいない兄貴に、文化祭の後の時間を誰かと過ごそうなんて発想出てくるわけないよ」
通りかかった琴音がいつも通り絶対零度の視線を俺に向けてくる。
「朝っぱらから悠斗の周りは賑やかだねー。なんか今日も一波乱ありそうでワクワクするよ」
「外野だからってホント楽しそうだなおまえ……」
Sっ気満載に目をキラキラさせている司と、呆れて嘆息する恭也もおり。
……本当に意味わからん。
×××
そんなこんなで俺も朝食の配膳も手伝いつつ。
マスターから「今日はおまえがみんなにコーヒーを出してみな」とオーダーを受けたので、店主直伝の(いや全然そのレベルじゃないが)ドリップコーヒーを慎重に抽出する。
エリスや真岡には結構な頻度で俺の淹れたコーヒーを飲んでもらっているが、桐生たちに披露するのは初めてだ(お子ちゃま舌の琴音はコーヒーが飲めない)。
カップに注いだコーヒーをトレイに乗せてフロアに戻ると、みなが思い思いに席に着き始めていた。
うーん……いつもの席空いてねえな……。
習慣というのは不思議なもので、誰が決めたわけでもないのに座る位置はほぼ固定化されていくものだ。
逆に言えば、そのくらいには俺もここで食事をするのが当たり前になりつつあるとも言える。
だが、今日に限ればそこは司が占領していた。すると、
「悠斗、こっちこっち!」
エリスがポンポンと自分の左隣の椅子を叩いている。
「ん、わかった」
俺はそれぞれに(琴音にはオレンジジュース)コーヒーを配り、最後にエリスの前にソーサーを置く。
「ほら。熱いから気をつけてくれ。いつも通りブラックでいいよな?」
「うん、ありがと悠斗! 悠斗も座って?」
「おう」
そしてそのまま、彼女の隣に腰を下ろした。
「ん?」
と思ったら、やけに興味深げな瞳が4つ。いや6つか。俺に刺してくる。
「……なんだよ」
「いやあー、やけにナチュラルなやり取りだなと思って」
「今までだったら絶対避けてわざと遠くの席に行ってたよな。それか照れまくった挙句に渋々受け入れるか。もちろんそれは一回否定しましたよポーズ」
「あー、それ悠斗あるあるだね。無駄なカッコつけっていうか、プライドっていうか」
「もう。そこまで自然にいられるようになったんなら、もっと踏み込んであげなさいよ。まったく情けないんだから」
口々に勝手なことをのたまう幼なじみーズ。
「ふふっ、みんなホントに悠斗のことが好きなんだね」
「そういうんじゃないんだろこれ……」
俺は昨今批判にさらされやすいやれやれ系男子のごとく、大仰に肩をすくめた。
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