第54話 ムチャとトロンvs絶望の劇団6

 町の中央に建てられた古めかしいその劇場は、背に夕日を背負い何やら不気味な雰囲気を放っている。


『本日休演』の文字が書かれた看板の立つ劇場の入り口前にはムチャとトロンが立っており、険しい表情で劇場を見上げていた。


「……やっぱり、何かあるな」

 ムチャの言葉にトロンは頷く。

 ムチャはトロンのように魔力を感じ取る事はできないが、それでもこの劇場に何かがある事は感じ取れた。それは、これまでの旅で幾多の戦闘を経験してきたムチャだからこそ感じられる『戦い』の気配であった。


 そして、トロンは自らの心臓が先程よりも更に強く脈打っているのを感じていた。


 ドクン……ドクン……


 トロンは薄い胸に軽く手を当て、ムチャの顔を見やる。

 ムチャはトロンの顔を見て強く頷き、劇場の入り口に向かって歩みを進めようとした。すると————


「おや、今日は休演日なんですけどねぇ」


 背後から聞こえてきた妙に耳障りな声に二人が振り返ると、そこには血のように赤い服を着た、妙に手足が長く、背の高い男が立っていた。


 いつの間にか背後にいた男が放つただならぬ気配に、二人は咄嗟に飛び退き剣と杖を構える。


「おやおや、どうされましたか?」

 すると男は舞台上の役者のように大袈裟に驚いた表情を浮かべた。


「お前か、町の人達をおかしくしたのは?」

「おかしく? さて、何の事やら」

「すっとぼけるなよ! お前は何者だ!?」

「何者も何も私はこの劇場を貸し切っている旅の一座の座長のグリームと申しまして……おや?」


 そこまで言いかけて、グリームと名乗った男は突然目を見開く。

 そして感動に打ち震えるかのように、ワナワナと震えだした。


「まさか……あなた達は……おやおや、おやおやおやおや、そうでしたか!! 何の因果か知りませぬが、まさかこんな所で……!!」

 一人で興奮し始めたグリームの様子に、ムチャとトロンは眉を潜める。


「トロン、知り合いか?」

「ううん、知らない。こんな人……こんな邪悪な気配を放つ人、知らない」

 トロンが首を横に振ると、グリームは温和な笑みを浮かべて二人に歩み寄る。


「いやいや、お二人が私を知らぬのも無理はありません。しかし全くの無関係というわけでもなくてですねぇ」

 そして、こんな事を言い出した。

「とにかく、こんな所で立ち話も何ですので、もしよろしければ中で我々の舞台を一席ご覧になりませんか? お二人の用事はそれからという事で」

 そう言ってグリームは揉み手をしてその長身を媚びるように屈める。

 どう考えてもこれからお芝居を観るという雰囲気ではなかったが、二人はグリームの言葉に何ががあると思い、得物を手にしたまま顔を見合わせて頷いた。

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