第52話 ムチャとトロンvs絶望の劇団4

 その後、プレグ達と別れたムチャとトロンは、広場で客寄せをしてお笑いを披露しようとしたのだが、先程の騒動のせいか、はたまた広場のあちこちで放心している人々のせいか、思うように観客が集まらずに客寄せを断念した。


「ったく、なんなんだよ」

「さぁ……」


 二人はその後もネタができそうな場所を探して町を歩き回ったのだが、町のあちこちでは喧嘩が頻発しており、落ち着いてお笑いが出来そうな場所は見当たらない。

 人気の無い路地裏で、ムチャは木箱に腰掛けてため息をつく。


「まいったなぁ。この町で何が起こってるんだ?」

「わからない……。でも多分——」

 ムチャの隣に腰掛けるトロンは、先程と同じように遠くに見える劇場を見やる。


「やっぱり、あの劇場のせいなのか?」

「うん、だと思う。詳しくはわからないけど」

「あんまり面倒ごとには巻き込まれたくないしなぁ。次の町に向かうか?」


 二人は性格的に困っている人や悲しんでいる人を放ってはおけないし、助けられる人は助けたいと思っている。しかし、彼等の本業はあくまでお笑い芸人であり、正義の味方ではない。なので、自ら得体の知れぬ面倒ごとに首を突っ込むのはできるだけ避けたいのだ。


「でも……」


 トクン……トクン……


 トロンは先程から、自らの心臓がやけに強く鼓動している事を感じていた。


「どうしたトロン、大丈夫か?」

 ムチャがトロンの顔を覗き込むと、トロンは小さく首を横に振る。


「ううん。大丈夫、何でもない」

 ムチャはいつになく不安げな表情を浮かべるトロンの様子に首を傾げたが、あまり深く考えずに、木箱から立ち上がり歩き出そうとした。


 すると——


「やぁやぁ、ようやく見つけましたよ」


 頭上から若い男の声が降ってきて、二人は頭上を見上げる。

 二人が見上げた建物の屋根には、剣を腰に携えた長髪でスタイルの良いハンサムな男が腕を組んで立っていた。


「貴様だな、乱心して少女を誘拐したという勇者の弟子とは」

「「?」」

 男の言葉に、二人の頭上にハテナマークが浮かぶ。

 男は剣を抜いて跳躍し、二人の前に音も無く着地した。


「我はペシェ王国に雇われし、さすらいの魔法剣士ナップ! 誘拐犯よ、成敗させて貰うぞ!」

 それを聞いて二人はナップと名乗った男がペシェ王国からの刺客である事を察したが、どうやら男は何か勘違いをしているようだ。


「待て待て! 俺は誘拐犯なんかじゃないぞ!」

「誘拐犯はみんなそう言うのだ! ペシェ魔法学院よりそこにいる学徒の少女を誘拐したのだろう!?」

「まぁ、確かに誘拐したけど……」

「ほれみろ! やはり誘拐犯ではないか! お嬢さん、今私が誘拐犯を成敗して、あなたを故郷に連れ戻してあげますからね」

 ナップは白い歯を輝かせてトロンにウインクをすると、左手に魔力を宿して剣を撫でる。すると、ナップの握る剣を炎が包み込んだ。


「魔法剣か!? 待て待て! ちょっと話を聞け!」

「悪党の言葉など聞く耳持たぬわ! 貴様も剣を抜け! 正々堂々勝負しろ!」

「だから話を聞けって!」

 どうやらナップはかなり思い込みの激しい男のようで、ムチャの制止を聞かずにジリジリと距離を詰めてくる。しかもたちの悪いことに、頭は悪そうなのに強者が放つ独特のオーラを放っていた。戦いは避けられそうにはない。

 すると、不意にトロンの杖からナップに向かって電撃が放たれた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 完全にノーマークだったトロンから電撃を受けたナップは口から煙を吐きながらがっくりと膝をつく。


「な……な、ぜ……」

 ナップに意識があるのを見たトロンの杖から再び電撃が放たれる。


「あがががががががががが!?」

 再び電撃を受けたナップは、今度こそ完全に沈黙して地面に倒れた。

 ピクピクと痙攣しているナップを、ムチャは何とも言えない顔で見下ろす。


「トロン、やり過ぎじゃないか? こいつなんか誤解してたみたいだし……」

「でも、話し合いできなそうな人だったから」

「……それもそうだな」

 それから二人はどこからかボロ布を拾ってくると、ナップをぐるぐる巻きにして大通りに運び出す。そして、通りを走っている適当な荷馬車に投げ込んだ。


 荷馬車はガラガラと車輪の音を立てながら、町の出口に向かって去って行く。二人は小さく手を振って荷馬車を見送った。

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