第51話 ムチャとトロンvs絶望の劇団3
「ニ、ニパ!?」
「どうしてここに?」
驚く二人の顔を見て、ニパは「エヘヘ」と無邪気な笑みを浮かべる。
実は二人がルイヌの町を出た後、こんな事があったのだ。
ムチャ達と別れた翌日、ニパはトロンに貰ったチケットを手に、プレグのショーを観に行った。
ニパは普通に観客としてプレグの魔法によるジャグリングやマジックのショーを存分に楽しんでいたのだが、その途中でトラブルが起こった。
ガコッ
天井に設置されていた飾りの一つが器具から外れ、プレグの頭上へと落下し始めたのだ。プレグはショーに夢中でその事に気付かない。
その時、客席にいたニパは叫び声を上げる前に、咄嗟に体が動いていた。
「危なぁぁぁぁい!!」
客席から飛び出したニパは、人間とは思えぬ脚力でステージ上まで跳躍し、プレグの頭上に迫っていた飾りを蹴り砕いたのだ。
着地したニパが気がつくと、ニパの体は半分だけ獣化していた。
プレグは飾りの破片を浴びながら、突如ステージ上に現れたニパを唖然として見ていたが、すぐにハッとして高らかに声を上げる。
「さぁ! サプライズで登場してくれたのは、私のアシスタントで、驚くべき身体能力を持つ獣人の少女、サファイアちゃんでした! 皆様拍手!」
客席から大きな拍手が起こり、ニパがポカンとしていると、プレグがニパをチラリと見て、
「ほら、取り敢えず手を振って」
と言ったので、ニパは恐る恐る手を振ってステージを下りた。
体の獣化はいつの間にか解けており、先日の暴走がきっかけだったのかは分からないが、ニパは自らの獣化をある程度コントロールできるようになってしまっていたようだ。
ショーが終わった後、舞台袖でショーを見ていたニパに、プレグが声を掛けた。
「ありがとう。助かったわ」
プレグの煌びやかなショーに感激していたニパは、ただ顔を赤くしてコクコクと頷く。すると、プレグはこんな事を言い出した。
「あなたは獣人……なのかしら? 凄いアクションだったわね。良かったらウチでアクロバットショーでもしてみる? なんてね」
プレグからすればそれは軽い冗談だったのかもしれない。
しかし、ニパはそれを聞いて深刻な表情で何かを考え始めると、やがて力強く言った。
「やる!」
「……え?」
「あなた、旅芸人でしょう? 私、あなたと一緒にショーやる!」
ニパがそう言ったのには理由があった。
ニパの母親が病気で亡くなったのは以前語った通りではあるが、ニパの父親については獣人である事以外は未だ語られていない。
かつて、ニパの母親は亡くなる前に、ニパに父親について話した事があった。
「ニパ、あなたのお父さんはあなたが産まれたばかりの頃、大事な事を成すために私達の元を去って行ったの」と。
それを聞いていたニパは、いずれはその父親の行方を探したいと常々思っていた。そして、旅芸人であるプレグについて行けば、各地を旅して父親を探す事ができるのではないかと考えたのだ。
その後はまぁ、自分からあんな事を言いながら散々渋るプレグと一悶着も二悶着もあり、なんやかんやでニパはプレグのアシスタント兼弟子として、旅に加わる事になったというわけだ。
「なるほどなぁ」
「そんな事があったんだ」
ムチャとトロンはうんうんと頷いてはいるが、プレグの方はおかんむりである。
「人ごとだと思って……。大体、この子に私のチケットあげたのあんた達だって言うじゃない! 私が勧誘したかったのはトロンなんだからね!」
すると、ニパがプレグの肩をポンポンと叩く。
「まぁまぁ、そんなに怒ると小皺が増えるよプレグ」
「私はまだそんな事気にする歳じゃないわよ! それから師匠を呼び捨てにするなって言ってるでしょう!」
「そうだった! ごめんプレグ……」
「ほらまた呼び捨てにしたぁ!!」
ムチャ達は話を聞いて色々不安に思っていたが、どうやらこの二人はこの二人で仲良くやっているようだ。
「でもさぁ、確かにこの町の様子はおかしいよな」
ムチャが再び広場に目をやると、先程まで喧嘩をしていた人々が衛兵達に連れて行かれるのが見えた。そしてボーッとしている人々は相変わらずボーッとしたままである。
「物乞いにしては随分身綺麗だしね。それに、おかしいのはここだけじゃないわ」
プレグが見た方向には大きな通りがあり、その奥には一つの劇場が建っていた。
「さっき、あの劇場で公演をさせてもらえないか聞きに行ったのよ。そしたら、ある旅の劇団がしばらく貸し切っていて、いつ空くかわからないからステージは貸せないって言われたの」
「ブッキングしてるなら仕方ないんじゃないか?」
「でも、いつ空くかわからないなんて事ある? どんなに人気でも旅の劇団が一週間以上劇場を貸し切るなんて事は滅多にないだろうし、それに……」
プレグがそこまで言いかけた所で、今度はトロンが真剣な表情で口を開いた。
「何か、嫌な魔力を感じる……」
それは、トロンの魔法使いとしての直感だったのか、トロンの体内にある魔王の心臓が感じさせたものなのかはわからない。だが、とにかくトロンは遠くに見える劇場から何か邪悪な気配を感じ取っていた。
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