第46話 ムチャとトロンの旅立ち。11
どこまでも晴れ渡る、雲一つない青空。
木々を撫でる柔らかな南風。
それは、旅立ちの日を迎えた新たな芸人コンビを祝福しているかのような、穏やかな気候であった。
ムチャと少女は海が見える崖に建てられた真新しい墓に花を手向けると、祈りを捧げ、墓に背を向けて歩き出す。
「ねぇ、ちゃんと挨拶していくんだよね?」
「あぁ、最後にな」
そう言って二人は、墓から程近い丘の上に建つ教会へと足を向けた。
教会を訪れた二人を待っていたのは、一人の美しいシスターであった。
「あら、おはよう。あなた達、今日旅立つんだってね」
「うん。色々世話になりました」
「なりました」
二人が頭を下げると、シスターは僅かに寂しげな笑みを浮かべる。
「寂しくなるわね」
「まぁ、いつまでもここにいるわけにもいかないんで」
「そうね。あなた達は旅芸人だものね。でも、近くに寄ったらまた顔を出して頂戴。待ってるから」
「必ず来ます。できれば、次に来る時は世界一のお笑い芸人になって」
三人がそんなやりとりをしていると、教会の奥にあるドアがゆっくりと開いた。
「アイナー、朝飯はまだか?」
すると、そこにいたのは車椅子に乗ったケンセイであった。
「おう! お前達、今日立つんだってな!」
あれから何があったかというと————
☆
それは、ケンセイの意識が闇に呑まれた直後の事であった。
「ヒャ、ヒャハハ! 死んだ! 死んだぞ! 伝説の勇者が、英雄が死んだ!」
高笑いを上げるセシルを見て、ムチャはケンセイの剣を手にして立ち上がる。そして少女も、杖を手にムチャの隣に並び立つ。
「ケンセイはこんな事望んで無いかも知れねぇ。でも、ケンセイの死を笑うお前だけは……絶対に許さねぇ!!」
「どう許さないっていうんだい? エクセルならともかく、君達が学院にいる全ての魔法使いを相手にできるとでも思っているのかい?」
セシルの背後からは、無数の魔法使い達と、機構ゴーレム達が城門に向かって迫って来ていた。
万に一つも勝ち目は無かった。
しかし、ムチャ達はセシルに一矢報いぬ訳にはいかなかった。
「うおぉぉぉお!!」
ムチャが全身から赤いオーラを放ったその時だ。
ドゴォン!!
遥か上空からセシルの背後に何かが落下し、機構ゴーレム達が吹っ飛んだ。そしてそこにいたのは、弁髪を結った武闘家らしき一人の男だった。
「セシルよ、しばらく見ないうちに随分ヤンチャになったものだな」
「き、貴様……いや、あなたは! 『神の拳』リュー・マオ!?」
謎の武闘家の登場に慌てふためくセシル。
更に。
「まだ息はあります! 私が祈りで肉体の時間を止めますので、後を頼みます!」
「了解! 治療に入るわ!」
ケンセイの側にはいつの間にか修道着を着たシスターと、白衣を着た医師らしき女性がおり、ケンセイの治療を始めていた。
「『伝道師』アイナに、『死神泣かせ』のリリーまで!?」
更に更に。
「セシルちゃん、結構偉くなったんだって? 金貸してよ」
「ふむ、相変わらず鍛えていないようだな」
セシルの両隣には、盗賊風の男と筋骨隆々で半裸のマッチョが立っていた。
「『国宝泥棒』ルイ!? 『奴隷王』ガルマン!?」
彼等は皆、かつてケンセイと共に各地を旅し、世界を救った伝説の勇者パーティの一味であった。
「な、なぜあなた達がここに!?」
セシルの問いに、盗賊風の男——ルイは答えた。
「そりゃあ、クレアちゃんに枕元に立たれたら、来ないわけにはいかないでしょう」
そう、数日前、彼等は同じ夢を見たのだ。
夢の中で、クレアはケンセイの危機を報せた。
それに応じ、魔王討伐後に世界各地へと散っていた彼等は、遥か遠いペシェの地まで馳せ参じたのだ。
「バ、バカな! そんなバカな!! 私の計画が!!」
「懐かしいなぁ。魔王の手下にも、そう言って死んでいった奴が山程いたぜ」
長い舌でベロリとナイフを舐めたルイの目が妖しく光った。
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