第35話 幕間

 スズカが空に祈りを捧げている頃、ムチャとトロンの二人は街道をゆっくりと走る荷馬車の荷台に寝転がり、星空を見上げていた。

 聞こえてくるのは車輪が土を転がる音と、馬の足音、そして風が草を優しく撫でる小さな騒めき。


「ねぇ、ムチャ、寝た?」

 星空を見上げたまま、トロンは尋ねた。


「目を開けたまま寝る奴がいるか?」

 星空を見上げたまま、ムチャは答えた。


「ごめんね。スズカのレース、最後まで見たかったよね」

「お前が謝る事じゃねぇよ」

「だって追手が来たのは私のせいだもん」

「いや、俺のせいだね」


 荷台の上に僅かな沈黙が流れる。

 しかし、それはそんなに気まずい沈黙ではなかった。

 二人は互いの決断に微塵の後悔もしていなかったからだ。


「私達、いつまでこんな旅を続けられるかな?」

「さぁな、ヨボヨボになるまでかもしれないし、明日には終わるかもしれない。そんな事考えても意味ねぇよ」

「……うん、そうだね」


 二人はどちらともなく目を閉じる。

 そして、あの日の事を思い出す。


 二人が旅に出た、あの日の事を————

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る