第32話 吹けよ神風、疾風怒濤の箒レース!11
その頃ムチャとトロンは、黒尽くめの集団との激しい戦闘を繰り広げていた。
黒尽くめ達は壁を自在に跳び回り、魔法と武器で息の合った波状攻撃を仕掛けてくる。
「くそっ! こいつら結構強いぞ!」
「スズカさんのレース、見たかったなぁ」
「それより今はこいつらをなんとかしないと! トロン、俺が時間を稼ぐから、大技を頼む!」
ムチャは全身から黄色いオーラを放ち、トロンの前に陣取ると、感情術を発動させた。
「喜の巻! 狂喜乱舞!」
それは術者の身体能力を活性化させ、素早い剣技を可能とする『喜』の感情術であった。
ムチャが黒尽くめの達の攻撃を捌く中、トロンは杖に魔力を込めて呪文の詠唱を始める。
「雷の精霊よ、眩く素早き者達よ、今こそ我に力を貸し与え給え。我が魔力に呼応し、鋭く尖り針となり、束ね集まり山となり、我が眼前に立ちはだかる敵を穿つ事を願わん」
トロンの詠唱が進むにつれ、杖が放つ光が強くなり、杖の先端からはバチバチと放電が起こり始めた。
「ムチャ、跳んで!」
トロンの声を合図に、ムチャは大きく跳躍する。
そしてトロンは前方にいる黒尽くめ達に杖を向けて叫んだ。
「
すると、杖の先端から針状の電撃が高速で大量に放たれ、黒尽くめ達に突き刺さる。雷の針に刺された黒尽くめ達は感電し、ブルブルと全身を震わせると、焦げ臭い匂いを放ちながらその場に崩れ落ちた。
「ったく、苦労させやがって」
「ムチャ、急がないとレースが終わっちゃう」
「あぁ、急ぐぞ!」
ムチャは感情術を解除し、剣を鞘に収めると、競技場に向かって走り出そうとした。
しかし——
「おい! どうしたトロン!?」
トロンは自ら急がないとと言っていたにも関わらず、競技場の向こうを見つめたまま動かなくなっていた。
「トロン?」
「……何か、来る」
トロンの目には、遥遠くの上空を舞う小さな影が映っていた。
☆
「ハァ、ハァ……ふぅ」
フィーネグループの妨害を受けながらも第一チェックポイントを無事通過したスズカは、第二・第三チェックポイントまでを通過し、森を大きく周りながら、現在第四チェックポイントに向けて順調に飛行していた。
多少の抜きつ抜かれつはあるものの、スズカの認識では順位は現在三十位前後をキープしており、例のショートカットに成功すれば、まだなんとか優勝を狙える順位である。
しかし、試合のプレッシャーのせいか、スズカの体力は予想以上に消耗されていた。
「頑張れ、ワールウィンド……」
スズカの体力と魔力の消耗に比例して、徐々にスピードを落とし始めたワールウィンドを励ましつつ、スズカは第四チェックポイントを通過する。
遥か前方には、先頭を飛ぶ長い金髪と赤いレーサーコート——フィーネの姿が見える。フィーネはチラリとこちらを見ると、背後を飛ぶ三人の選手に合図を送る。すると三人はこちらを見ながら徐々にスピードを落とし始めた。恐らく第一チェックポイントの時の様に、スズカの妨害をするつもりなのだろう。
しかし、スズカは三人が接近してくる前に、箒の先端を森へと向けていた。
「超集中……!!」
スズカは目を細めて瞬時に心を鎮めると、意を決して森の中へと飛び込んだ。
森に入ったスズカに、立ちはだかる木々と無数の枝が襲い掛かる。
しかしスズカは恐るべき集中力で、その全てを最小限の動きで躱し続ける。
尖った木の枝が頬をかすめ、スズカの頬に赤い線が引かれた。
それでもスズカはスピードを緩めない。
次々と後方に流れてゆく風景をスローモーションのように捉えながら、スズカは今、自分がマグナの作ったワールウィンドと一体になっているのを確かに感じていた。
一分、二分、どれくらいの時間、木々を躱し続けただろうか。
やがて前方から光が差し、スズカはトンネルを抜けるように森から飛び出す。
光の中へと飛び出したスズカの目は、すぐ眼前にフィーネの背中を捉えていた。
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