第31話 吹けよ神風、疾風怒濤の箒レース!10

 選手の入場が終わり、競技場内にファンファーレが鳴り響く。

 競技場に立つスズカはそれを聞きながら箒を握り締め、昂る己の鼓動を鎮めた。しかし、反対に闘志だけはメラメラと燃え上がらせ、ゆっくりと箒に跨る。


 その様子を、マグナは関係者席から祈る様な思いで見ていた。

 スズカの無事と勝利を願って。


 ファンファーレが鳴り止むと係員が旗を上げ、それを合図にスズカと、そして百人を越えるレーサー達が一斉に空へと舞い上がる。

 色とりどりのレーサーコートを着た魔法使い達がスタートライン上に浮かぶ光景は壮観で、スタートを前にして観客達から大きな歓声が起きた。


 歓声の中にありながら、スズカは神経を張り詰めてスタートの合図を待つ。すると、スタートライン前方に浮かぶ魔石が輝きを放ち始めた。


 赤


 大きく息を吐き、腹に力を込める。


 黄


 足置きに足をかけ、前傾姿勢に身構える。


 青


 魔力を全開に放出し、スズカはスタートを切った。

 箒の柄から穂へと魔力が流れ、後方へと放出される。

 スズカの顔面を風圧が叩き、箒はみるみるうちにスピードを上げてゆく。

 普段であればスタート直後の直線で、いつも他の選手の背中を拝みながら飛んでいたスズカは、今は見事にトップ集団と並走していた。


(やっぱりこの箒……速い!!)


 スズカは二日前にワールウィンドを手にしてから他のレーサーと共に飛んでいなかった為に、そのスピードを体感でしか感じた事が無かった。しかしどうだろう。いざ飛んでみれば、魔力の乏しいはずのスズカは他のレーサー達と遜色のないスピードで飛んでいるではないか。


 それは、マグナが彫った魔法式と、スズカの魔力に合わせて厳選された素材を絶妙な調合で練り込んだ魔力伝達物質の力であった。


「よっしゃあ!」

 スズカが最高のスタートを切ったのを見て、マグナは思わず声を上げる。


 同じラインからスタートした選手の群が徐々に縦に伸び始め、スズカはやや魔力の放出を弱める。全力を出して先頭集団で飛ぶのは確かに快感だ。しかし、ペース配分を間違えて魔力切れを起こしては元も子もない。スズカが全力を出すのはまだここではないのだ。


 すると、後方から加速してきた選手のタックルを受けて、スズカは僅かにバランスを崩す。スズカが隣を見ると、そこにはフィーネと同じイーグルラッシュ社のロゴを背負った選手がいた。更に、スズカを挟んで反対側にも同じロゴを背負った選手が並走してくる。

 彼女達はまるでスズカの妨害のみを目的としているかのように、挟み込むように交互にタックルを見舞ってきた。それをスズカは上下左右と自在に動き、躱し続ける。


 やがて彼女達はタックルが当たらぬ事に痺れを切らしたのか、スズカと大きく距離を取り、助走をつけて勢いよくぶつかってくる。

 スズカがそれを躱すと、彼女達は互いにぶつかり合い、大きくよろめいて後方へと置き去りにされた。


 次の瞬間、スズカは第一チェックポイントを通過した。

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