第28話 吹けよ神風、疾風怒濤の箒レース!7

「集中……集中……」

 木々が立ち並ぶ森の中を、スズカは箒で飛びながら次々と潜り抜けてゆく。

 すると、木の枝を躱した先に、新たな木の枝と木の上から落下してくる何かが見えた。

 スズカは箒を軸に素早く一回転をして木の枝を躱すと、そのまま回転しながら落ちてきた何かをキャッチして、ピタリと止まる。スズカが手を広げると、そこにはピィピィと鳴く元気な雛鳥の姿があった。


「良かった……」

 大会を二日後に控え、スズカはムチャの教えた超集中を既にかなりモノにしていた。


 スズカが雛鳥を巣に返して森を抜けると、そこにはムチャとトロンが待っていた。

「さっきよりちょっと遅かったけど、何かあったか?」

「うん、ちょっとね。でも大丈夫、感覚はかなり掴めてきたから」

「よーし、じゃあ、後はできるだけ練度を高めながら本番を待つだけだな!」

 そのまま夕方まで森で練習をした三人は、その夜は精をつけるために町の食堂で少し豪勢な食事をする事にした。


「さぁ、私の奢りだからジャンジャン好きな物を頼んで」

 ムチャ達はスズカの言葉に甘え、スズカの顔が青くならない程度に様々な料理を注文して食べ始める。普段貧しい食事ばかりしている二人にとっては、人の奢りで食べ放題というのは夢のような出来事である。


「私、二人に会えて本当に良かった」

 ムチャ達が仲良くピザのチーズを伸ばしていると、スズカはそんな事を口にした。


「だって、あなた達に出会わなかったら、私は今頃大怪我してただろうし、きっと明後日のレースも負けるつもりで参加していたと思う。本当にありがとう」

「お礼だったら優勝してから言ってくれよ。俺達はただ、宿と飯の対価を払ってるだけだしさ」

「そうそう、こんなにチーズたっぷりのピザもご馳走して貰ったし」

 無邪気に食事を楽しむ二人を見て、スズカは幼い頃のマグナと自分を思い出して微笑む。


「そういえば、マグナさんは誘わなくてよかったの?」

「あぁ、あいつはいいのよ。人が多い所苦手だし」

「でも、マグナさんもたまにはスズカさんと食事したいんじゃないかなぁ」

 トロンの言葉はなんだか意味深であった。


「どういう意味?」

 スズカの問いには答えずに、トロンはスズカに質問を投げかける。


「ねぇ、スズカさんはマグナさんの事好きじゃないの?」

「だ、だから、マグナはただの幼馴染みだって……!!」

「でも、マグナさんはスズカさんを好きだと思うよ」

 酒を飲んだわけでもないのに、スズカの顔がわかりやすくカーッと赤くなった。


「ト、トロンさんはおませさんねぇ! そんな話誰から聞いたの?」

「誰からも聞いてないけど、客観的に」

「それは気のせいよ、気のせい! 大体あいつは昔から無口で、箒にしか興味無いのよ! 箒バカよ、箒バカ! いや、逆にバカ箒よ!」

 スズカの言っている事は意味不明であったが、スズカのリアクションは実にわかりやすかった。


「でも、マグナさんが作ってるのはスズカさんの箒だし、スズカさんもマグナさんの箒に乗ってるよね」

「そりゃあマグナは箒バカだから箒くらい作るでしょうよ! それに、私もレーサーですから箒くらい乗りますよ? えぇ、乗りますとも!」

 エールを煽るかのようにガバガバと水を飲み出したスズカの顔は、もう赤いを通り越してトマトのようになってしまっている。


「でも、スピードが出ないって言いながらも、マグナさんの箒に乗り続けてるよね」

「だ、だって……」

 スズカの顔から急激に赤みが引き、スズカはしおらしく項垂れる。


「だって、約束したんだもの……マグナの箒で優勝するって」


 それを聞いたトロンは、珍しく表情を崩して小さく微笑んだ。

 ムチャは何の話かわからず、ただ頭に疑問符を浮かべてチーズを伸ばしていた。


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