第25話 吹けよ神風、疾風怒濤の箒レース!4
トロンとスズカが戻ってくると、ムチャは原っぱに寝転がり、鼻ちょうちんを作ってグースカと寝こけていた。トロンが杖で鼻ちょうちんを割ると、ムチャは目を覚まして起き上がる。
「んー……練習はどうだった?」
「いやぁ、それが、トロンさんが色々と凄すぎて参考にならなかったです」
「まぁ、トロンは人に物を教えるタイプじゃないしな」
あれから二人は旋回や上昇下降等を競ってみたのだが、トロンはフォームはめちゃくちゃでありながら、強引な魔力の放出でその全てにおいてスズカに勝利してしまった。しかし、最初の直線競争よりはかなり良い勝負になっていた。
「私、箒の細かいコントロールには自信があるんですけど、魔力の量が並みの魔法使い以下なので、いつも直線で抜かれちゃうんです」
「魔力の量とスピードって関係あるのか?」
「関係あるどころか、スピードそのものですよ」
そこからはスズカの講義が始まった。
ムチャはスズカの話をあまり理解できなかったが、辛うじて理解できたのは、魔法使いが箒に込めた魔力が箒の柄を通って後方へと放出されると、それがそのまま推進力になるという事らしい。
「まぁ、箒の魔力伝導率とか加速のタイミングとか風の読み方とか、他にも色々あるんですけど、とにかく魔力がなければスピードが出ないんです!」
「なるほどなぁ、トロンが速いわけだ。トロンはゲップで出るくらい魔力があるからな」
トロンは無言でムチャの顔面にビンタをした。
「トロンさんに聞けば少ない魔力を上手く推進力に変換できるコツを教えて貰えると思っていたのですが、そもそも魔力自体が段違いだったなんて……」
「じゃあ、魔力を増やせば良いんじゃないのか?」
「簡単に言いますけど、そこは才能というかなんというか……」
「なら、スピードの出る他の箒に乗るのはどうだ? マグナのじゃなくて、他の職人の箒とか」
「それはダメ! 私はマグナの箒で飛びたいんです! 確かにマグナの箒はスピードは出ないけど、私の思う通りに動いてくれるし……とにかく私にとってはマグナの箒が一番信頼できる箒なんです」
「でも肝心のスピードは出ないと」
「まぁ、そうなんですけど……」
スズカが落ち込んでいると、上空から何者かの声が降ってきた。
「あら、スズカ。レースの練習もしないで子供達とお遊びかしら?」
三人が上を見ると、そこには赤いレーサーコートを着て、長い金髪を後ろで縛っている高飛車そうな女が箒に跨って飛んでいた。
「フィーネ!? 別に遊んでなんかないわよ。私はこの子達にコーチして貰ってるんだから邪魔しないで!」
フィーネと呼ばれた女はスズカを馬鹿にするように笑う。
「コーチ!? その子達がコーチですって!? あはははは! 可笑しい! シルフの指導者達にそっぽ向かれているからって、頭がおかしくなったのかしら?」
「……それはあなたのせいでしょう!?」
「あら、言い掛かりはやめて下さいな。私はただ、あなたに関わるとロクな事にはならないと皆さんに警告しただけですわよ。まぁ、せいぜい頑張って下さいな」
そう言い残すと、フィーネは光沢を放つ高そうな箒で何処かへと飛んで行く。飛び去ってゆくフィーネのコートの背中には、雄大に羽ばたく鷲をモチーフにしたロゴが描かれていた。
「今の性格悪そうな女は何だ?」
「あれはフィーネ。女性箒レーサーの現役女王で、シルフ最大の箒メーカー『イーグルラッシュ社』の社長の娘よ」
「なんか、えらくスズカを目の敵にしてたみたいだけど」
「そうなの。あの子昔は私とよく喋ったりしてたんだけど、プロになった頃から指導者に根回ししたりして、私を箒レース界から追い出そうとしてくるようになったのよ。理由は知らないけど」
「とにかく、あいつは卑怯な奴なんだな?」
「まぁ、実力があるのは確かなんだけど……黒い噂は絶えないわね」
卑怯な女王と報われぬ努力家とくれば、燃えずにいられないのがムチャとトロンの二人である。それは自分達も笑いの才能について常々悩んでいるせいもあるかもしれない。
「スズカ、今度ある大きなレースって、スズカとあの女も出るんだろ?」
「え? うん、一応エントリーはしてるけど……」
「じゃあ、そのレースで一位を取って、女王の座を奪い取ってやろうぜ!」
ムチャの言葉にトロンも「うんうん」と頷く。
「えぇ!? でも、どうやって……?」
「どうやってだ?」
「どうやってだろう?」
勢いで言ってみたものの、二人は見事にノープランであった。
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