第10話 狼少女は月夜に吠える。5
「いやー、シスターが親切な人で良かったなぁ」
ムチャは教会内の来客用の部屋に置かれたベッドに寝転がると、シーツに顔を埋めて久しぶりの布団の感覚を楽しむ。
「井戸で水浴びもさせてくれたし、ご飯もご馳走してくれたしね」
寝巻きに着替えたトロンはまだしっとりと濡れている長い髪を櫛でとかしている。
「しかしよぉ、俺達のお笑いももうちょっとウケないもんかな」
「子供達には結構ウケてたけどね」
この教会は孤児院も兼ねているらしく、二人は先程食堂で沢山の子供達に囲まれて食事をした。そしてその後にお礼として皆にお笑いを披露したのだ。その結果大爆笑とはいかなかったが、子供達は結構笑ってくれていた。
「子供だけにウケてもなぁ。やっぱりこう、プレグみたいにお色気とか必要なんじゃないか?」
そう言ってムチャは髪をとかす相方の体をジロジロと眺める。
相方のボディはプレグに比べて随分とメリハリが少ないシンプルボディであった。氷の上に投げればさぞかしよく滑るだろう。
「見ないで」
トロンの投げた櫛がムチャの額にクリティカルヒットした。
「いてぇ! やりやがったな!」
「ムチャのスケベ」
「スケベじゃねぇよ!」
「プレグのお尻見てたくせに」
「見てねぇよ!」
「見てたよ。ほら、プレグに貰ったチケットあげるから、お尻見に行きなよ。あれ?」
トロンはピタリと動きを止めると、少し考える素振りをしてカバンの中をガサゴソとあさり始める。
「どした?」
「プレグのチケットがない」
「どっかに落としたのか?」
「えーと……確かプレグからチケットを貰って……」
トロンが目を閉じて記憶を遡ると、チケットのありかはすぐにわかった。
「そうだ、まだパンを食べ終わってなかったから、チケットを石段の隙間に挟んだんだった」
「なんでそんな所に挟んだんだよ!?」
「うーん……チケットどうしよう?」
「まぁ、もったいないし取りに行くか。売れば金になるかもしれないしな」
「そだね」
金になるものとあっては放ってはおけない。
貧乏性の二人は教会を抜け出して広場までチケットを取りに行く事にした。
「でも、広場まで結構遠かったよね」
「じゃあ、飛んで行けばいいじゃん」
「え?」
☆
宵闇に包まれたルイヌの町の上空を、ムチャとトロンは杖に跨がりフワフワと飛んでいた。トロンは飛行魔法も扱えるのだが、あまり使いたく無い理由がある。
「いつも思うけど、これ尻が痛いな」
「だからあんまり飛びたくないの。お尻が二つに割れちゃうよ」
「……今は割れてないのか?」
土地勘の無い二人だが、上空から見渡せば昼間ネタをやった広場はすぐにわかった。広場に近付くにつれてトロンは徐々に杖の高度を落としてゆく。
すると、すぐ近くから男達の荒々しい声が聞こえてきた。
「待ちやがれコラ!」
「逃げるんじゃねぇ!」
二人が声のした方を見ると、眼下にある建物の間を一人の銀髪の少女と十人ほどの男達が追いかけっこをしていた。そして、二人には銀髪の少女に見覚えがあった。
「トロン! あの子だ!」
「うん」
トロンは杖の行き先を変えると、少女達の後を追った。
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