第2話 お笑いコンビ現る。2

 ガツガツガツガツ

 ゴクゴクゴクゴク


 見殺しにするのも忍びないという事で村役場に運び込まれた少年と少女は、ドリスが運んできた食料をまるで馬車馬のように勢いよくむさぼっていた。

 少年は素早い手つきでせわしなく食べ物を口に運び、少女はゆっくりとした動作ながら大きな口で丸呑みにするように食べ進める様子から、二人の性格の違いが見て取れる。

 彼等に何があったのかはドリスの知るよしではなかったが、よほど飢えていたのだろう。二人の前に用意された食料はみるみるうちに口内へと消えてゆく。


「いやー、助かったよおっさん!」

 先程まで死にかけていたにも関わらず元気よくそう言ったのは行き倒れ一号——剣を背負っていたツンツン髪の少年である。


「ありがとうございます、ありがとうございます……」

 感謝の言葉を呪詛じゅそのように唱えながら血走った目でパンを口に詰め込んでいるのは行き倒れ二号——大きな杖を手にしていた垂れ目で髪の長い少女だ。


 二人は食料を平らげると、目を閉じて涙を流し、生の喜びを噛み締めているようであった。ドリスはその様子を呆れたように眺める。


「で、お前らは何者だ? 見たところ剣士と魔法使いに見えるが、冒険者か? 旅人か?」

 ドリスの問いに少年が答える。


「違うぜおっさん! 俺はムチャ、ツッコミだ! そしてこっちの目がトロンてしてるのがトロン、ボケだ!」

「ムチャ・ツッコミ、トロン・ボケ……変わった名前だな」

「違う違う! お笑いのツッコミとボケだよ!」

「お笑いっていうと、お前達はもしかして……」

「そう、俺達はお笑いコンビ! 芸人だ!」


 少年はドリスに向けて力強く親指を立てた。

 それを聞いてドリスはふと先程村人の一人が言っていた事を思い出した。


「なるほど、それなら一飯の恩義にむくいて貰うぞ。ついでに一宿もおまけしてやる」


 少年と少女は仲良く首を傾げた。


 ☆


 日が明けて村祭り当日。

 広場に建てられた簡素なステージの前には、パイや肉の串焼きを手にした村人達がわらわらと集まっていた。


「ねぇねぇ、どんな芸人さんがくるのかな!?」

「去年は曲芸で一昨年は手品だったわね。今年は何かしら」

「予定していた芸人が来れなくなったと聞いていたけど、代わりが見つかったらしくて良かったなぁ」


 娯楽の少ないコッペリ村では芸を見る機会など滅多に無い。なので村人達は年に一度のこのステージに立つ芸人の芸が楽しみで仕方がなかったのだ。

 皆が期待で胸を膨らませながら芸人の登場を待ちわびていると、ステージに司会者である村人が上がり、高らかに声を上げる。


「さぁさぁ皆さんお待たせしました! 芸人さん達の準備が整ったようです!」


 司会者の言葉に村人達から歓声が上がる。


「本来ならば演劇をお見せする予定ではありましたが、訳あって急に演目を変更する事になり本当に申し訳ない。しかし、このタイミングでまるで運命に導かれるようにこの村を訪れ、そしてこのステージに立ってくれるという一組の芸人達がいました! 彼等には本当に感謝しかありません。それでは早速登場していただきましょう! 世界を旅して笑いの花を咲かせる若きお笑いコンビ、ムチャとトロンのお二人です!」


 村人達から盛大に拍手が起こり、惜しみない喝采を浴びながら元気よくステージに上がったのは、昨日ドリスに命を救われた少年と少女であった。


 昨日、ドリスは二人に言った。

「ちょうど芸人を探していたところだ。お前達には明日の村祭りでステージに上がってもらう。命を救ってやったのだから安いもんだろう?」

 有無を言わせぬ態度のドリスに、ムチャと名乗った少年は言葉を返す。


「あぁ、もちろんいいぜ。むしろ歓迎だ! なんせ俺達は世界一の芸人を目指すお笑いコンビだからな!」


 無駄に自信満々な様子にドリスはなんとなく不安ではあったが、まぁなるようになるだろうと思い、二人をステージに上げる事にしたのだ。


 そして今、少年達の芸が始まろうとしていた。

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