オープニング 

@dekai3

~ドラゴンと角砂糖~

 ここではない、どこか遠くの山の奥深く。

 自然に出来たとても大きな洞穴に、一匹のドラゴンが住んでいました。


 ドラゴンはとても大きな体で、歯はギザギザで、鱗は輝くような太陽の色をしています。

 ドラゴンはその特徴的な色と大きさから『ビッグ・サン』と呼ばれており、様々なもの達から恐れられています。

 ドラゴンは元々全ての生き物の頂点に立つ存在なので恐れられることが当たり前なのですが、このビッグ・サンは普通のドラゴンと一風変わった癖を持っており、その癖のせいでより一層恐れられている存在になっているのです。


 その癖とは、ドラゴンが共通して持つ習性である『美しいもの・綺麗なものを集めたがる』という事に全く興味が無い事です。


 普通のドラゴンならば金銀財宝や宝石、美しい彫刻、綺麗な音楽、美人な人間等を自分の巣に集めたがるのですが、この『ビッグ・サン』はそれがありません。

 その為、もしもビッグ・サンが暴れ出した時、『美しい物・綺麗な物を献上して怒りを鎮めて貰う』という事が通用せず、その大きさも相まって世界を滅ぼしてしまうのではないかと思われているのです。

 ビッグ・サンはとても大きな体をしているので、物理的に止めるのはとても大変です。その上、ドラゴンだから空を飛びます。空中から勢いよく着地されるだけで沢山の建物が吹き飛び、大地が裂け、人々は死に絶えるでしょう。

 それほど、ビッグ・サンは大きな体をしているのです。




 しかし、そんなビッグ・サンには悩みがあります。




 こんな事は恥ずかしくて誰にも相談出来ないのですが、実は、ビッグ・サンはので、他のドラゴンみたいに何かを集める事が出来なくて困っているのです。


 そうです。『美しいもの・綺麗なものを集めたがる』という事に全く興味が無いのではなく、『美しいもの・綺麗なものを集めたがってはいるけれど、何が集めたらいいのか分からない』のです。


 何が美しいものなのか、

 何が綺麗なものなのか、


 知り合いのドラゴン達は『これが自分の集めているものだ』と、大きな宝石で全身を飾り立てたり、人々が争う姿を見て喜んだり、胸が大きな雌を集めてハーレムを作ったりとしていますが、ビッグ・サンはそれが無いのです。

 だから、ビッグ・サンは今日も洞窟の奥で考えます。自分は何を集めたらいいのかと。何を美しい・綺麗だと思ったらいいのかと。ずっと一人で考えています。




 と、そんな事が何百年も続いたある日、ビッグ・サンの洞穴に何かが零れ落ちてきました。

 それは洞穴の湿り気を吸い、差し込む光を浴びてキラキラと輝く、一つの角砂糖でした。

 山の上を歩いていた何者かが落としたのでしょうか。転がった先に洞穴へ続く穴が開いていたんでしょう。


 ビッグ・サンはこの突然の来訪者に驚きました。

 驚きましたが、単なる角砂糖です。ほうって置けば洞穴の湿り気を吸って崩れて無くなるでしょう。取るに足らない物です。

 ビッグ・サンは角砂糖に取られた気を戻し、もう何度目かの自分にとっての美しいもの・綺麗なものが何なのかについての思案を再開しました。


「おいおい、無反応かい?」

「?」


 しかし、その思案は小さな声によって中断されます。

 ビッグ・サンは首を伸ばして辺りを見回しますが、この洞穴には自分と角砂糖以外何もありません。


「こっちだよこっち、今現れたばかりだろ?」

「???」


 ビッグ・サンは再度声のする方向へ首を伸ばします。ですが、そこにあるのは先程転がってきた角砂糖だけ。他には何もありません。


「俺だよ俺。目の前に居るだろう? この白い塊が俺様さ」

「!!?」


 なんと、角砂糖がビッグ・サンに向かって話しかけているのです。

 ビッグ・サンはとうとう自分がおかしくなったのかと思いました。ずっと一匹でいたから頭がおかしくなり、幻聴が聞こえ始めたのかと。


「お前さん、『美しいもの・綺麗なものがなんなのか分からない』という悩みを持っているんだってな。俺様はその悩みを解決させる為にやってきた」

「?」


 自分の『美しいもの・綺麗なものを集めたがってはいるけれど、何が集めたらいいのか分からない』という悩みは誰にも話したことがありません。

 それを知っているとなると、頭のおかしくなった自分が生み出した妄想なのか、それとも神様の様な存在なのか。


「まあ、解決と言っても俺様が直接お前さんに『美しいもの・綺麗なもの』が何なのかを教えてやる訳じゃない。俺様に出来るのは物語を語る事だ」

「?????」


 妄想にしてはよく分からない事を言うものだなと、ビッグ・サンは思いました。

 角砂糖が物語を語る。一体どういう事なのでしょうか。


「これから俺様が語るのは『美しいもの・綺麗なもの』がテーマな様々な物語だ。お前さんはこれを聞いて、美しいもの・綺麗なものには色々なものがあるという事を学べばいい」

「!?」

「そもそもだな、ずっと一人で考え込んでいても答えなんか出る訳ないだろうが。この俺様が30を超える物語を放してやるから、それを聞いて、その上でお前さんが考える『美しいもの・綺麗なもの』を考えてみな」

「???」

「どうせ俺様はほうっておけば溶けて消えるだけの角砂糖だ。それまでの間は清聴を頼むぜ、ビッグ・サンさんよ」


 角砂糖はそう言うと、ビッグ・サンの返事を待たずに物語を語り始めます。

 ビッグ・サンは突然の来訪者が突然語り出したことに驚きっぱなしですが、悩みを解決してくれるのならばとこの角砂糖の話に耳を傾ける事にしました。

 これが幻聴でも神様の使いでもなんでもいいのです。数十年ぶりに聞く他者の声はとても心地が良い物に感じました。


「じゃあいくぜ、作品集の題名は『第一回角砂糖短編小説大賞』。目録はここだ《https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054895825561》。後で感想も聞かせてもらうから、覚悟しておけよ?」

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