7 「あいつに汚ねぇ言葉を教えたのはお前か」

 グロウグリアスの登場から数日後。

 過去の回想の件もあって、また連日のようにシオンへ向かって行くものとばかりに思っていたが、あの一戦以来彼を見ることはめっきり少なくなった。

 十数年の年月が彼を大人にしたのか、はたまた裏でこっそり修行に精を出しているのかも分からないが、何にせよ目に見える範囲で平和なのは良い事だ。


 うっかり魔王城の中でことも無い訳じゃないが、シオンとセバスチャンという二枚盾がある以上、殊更俺に害を与える気は失せてしまったらしい。口では殺すだの死ねだの物騒な言葉を唾と共に吐き散らすものの、手を直接出してくる様子はもう見当たらない。

 でもせめて唾の掛かる距離で捲し立てるのは止めて欲しいところ。


 でもって。

 魔王城の中でもある意味有名なグロウグリアスまでもが、ただの人間に過ぎない俺へ手を出さないという衝撃的な噂が巷に広まったおかげで、いよいよ我が身の保身が色んな意味で確約された気がしている。


 ぶっちゃけ「この人間に関わったらやべぇ」みたいな視線で見られるようになった訳で、廊下ですれ違っても下級の魔族達は目すら合わせてくれなくなっていた。こんなの当初の予定と違う。

 元の世界へ帰るに帰れない現状、せっかくならシオン達と話しているような感覚で色んな魔族と交流をし、気晴らしをしたいんだが、やはり魔王やそれに連なる人物達と平気な顔してタメ口を聞いているのが上手くないらしい。

 それでも様相を営業モードに切り替えて、誠実かつ丁寧な身振りで物申せば、話を聞いてくれる魔族も居ない訳じゃない。まぁ結局直ぐ逃げられてしまうんだけど。


「──イッキ兄ちゃん、寂しそう」


 そんな過程を経ながら、現在城内を散策中である。

 相も変わらず後ろに着いて来ていたシュフュシュが、不意に立ち止まった俺を見てそんな事を言ってきた。

 以前から思っていたが、どうもシュフュシュは自分の感情表現は不得手な癖して他人のそれには敏感らしい。


「そう見えるか?」

「うん」


 あっさり答えた彼女は両腕の触手を二本伸ばして俺の頬に当ててきた。かと思えば、ひんやり滑らかな触感が両頬をぐにぐにと押しやってくる。


「……な、何してんだシュシュ」

「マッサージ」


 何だこいつ可愛いなぁもう。つまりはあれか、仏頂面になり過ぎて凝り固まった表情筋をほぐそうとでもしてくれてるのか。


「最近、難しい顔をしてる事が多くなったから」


 どうやら端から見てもそうらしい。

 鏡を見た訳でも無いのでどんな面をしていたのかも知らんが、シュフュシュがそう言うのならあからさまに表情に出ていたのだろう。もしかしたら直ぐに逃げられる下っ端魔族の対応も、そんな面構えが要因の一つでもあったのかもしれない。

 先日部屋に来た時の気遣い方といい、時折幼いながらもこうして面倒見の良さを垣間見せてくれるシュフュシュ。きっと将来、良いお嫁さんになるな。


「……あふぃはほうふぁありがとうなー」


 例によって無表情ながらもこちらを見上げ、植物式マッサージを施術してくれる少女にされるがまま、しばしその感触を楽しんだのだった。


******


 それから間もなく。

 後方から何やら聞き覚えのある、溌剌とした声色が急速に近付いてきた。何か叫んでるのは気のせい……じゃねぇなこれ。


「この声はキー」

「うぉぉおおオラッしゃァッ! 何してくれとんじゃテメー!!」

「ルぶっ!?」


 懐かしい声を聞いてシュフュシュの触手を解き、後ろへ振り返れば白い綿菓子もどき──もといシオンの使い魔であり賢者でもあるキールが、その勢いを殺す事なく顔面に突っ込んできた。

 思いがけない衝突っぷりに後方へたたらを踏みそうになったが、直ぐ後ろにはシュフュフュが控えている手前、その場で何とか踏み留まる。


「いってぇ……って、こっちの台詞だてめぇ! 久方ぶりに会えたかと思えば何だよいきなり!?」


 顔面をクッションにして弾むキールを両手で掴み取り、突然の暴挙に堪らず怒鳴り声を上げた。


「やっかましゃー! こちとらオメーのせいで意味の分からん苦しみを味わったんじゃい! たぶん!」

「たぶんって何だよたぶんって!? いいから落ち着け綿菓子ィ!」

「ウキャー! 綿菓子言うなっちゅーとろうにぶち転がすぞ!!」


 こちらの怒声を聞いて更に逆上したキールは目を三角にして俺に殴り掛かろうとと、その短い両腕を回転させ始めた。


「あーもう、俺が悪かったから落ち着けって……とりあえず分かるように説明しろ」


 眼前でそよ風を送り込むキールをどうにか宥めるため、声の調子を下げて冷静に諭してみる。すると次第に回転を弱めていったキールは、これ見よがしに長ったらしい溜息を漏らしてくる。


「……どーもこーも。頭や身体ン中こねくり回された感じがしてよー」


 その際起こった事態を思い出したのか、今度は頭部ら辺に腕を回して頭を抱えてみせた。


「アレのおかげで、あたしゃこっちの世界に戻った瞬間バタンキューよ。で、後から聞けばおめーまで転移したって言うじゃねーか」


 今度は片腕を俺の方へ向け、更に腕先から指らしき物体を伸ばす。まるで不調の原因の一端が、俺にでもあるかのような仕草だ。


「……つまり何か? 俺がこっちに転移した所為で、お前その意味の分からん苦しみとやらを味わったって言いたいのか?」


 自分で言いながら転移直前に起きたあの不調を思い出してしまい、堪らず苦い顔を浮かべてしまう。もがき苦しむとは、まさにあの様な事を差すのだろう。


「むーん? やっぱり何か心当たりがあるみてーな言い方だな」

「……まぁお前にゃ隠す事でも無いから話しとくか。実はな、俺も」

「イッキ兄ちゃん。このモフモフはなに」


 しかし当時の状況を説明しようとしたら、ここでシュフュシュが間に入ってきた。


「……何じゃいこのカワイコちゃんは」

「あぁ、この子はお前らが来てた合間に生まれたアルラウネだってよ。

 シュシュ、こいつはキールっつってな。こう見えてシオンの使い魔なんだぜ」

「綿毛みたい」


 話の腰を折られはしたが、二人とも互いに興味を示したのでひとまずその流れに乗っていく。そして簡単な紹介に双方が頷き合ったかと思えば、シュフュシュは植物ならではの感想を述べてきた。良かったなキール、綿菓子じゃなくて。


「綿毛かー……綿菓子とどっちがマシだと思うよ?」

「俺に聞かれても」

「まぁええわ。へい嬢ちゃん、ちょっと光合成しに行かない? 陽が当たる良い場所知ってんだぜあたし!」

「ナンパしてんじゃねぇよ張っ倒すぞ」

「ギャー!?」


 唐突な口説き文句に考えるより先に手が働いてしまった。彼女の保護者その二としてはごく当たり前の反応である。ちなみに保護者その一はギュッセルだ。

 脳天に手刀を食らったキールは頭部を凹ませて床に落ちると、その弾みで再び俺の目前までフラフラ浮き上がってきた。


「何してくれとんじゃ………脳みそ飛び出るかと……」

「すまんつい」


 頭上に星でも浮かべてそうな塩梅でフラつくキールに悪びれる様子も無く答えれば、今度はその様を見ていたシュフュシュまでもが動く。


「ちょわっ!?」


 シュフュシュは触手でキールを絡め取ると、たちまちに手元までそれを手繰り寄せる。突然の捕縛に驚くキールを他所に、何やら興味深そうに引っ張ったり縮めたりして弄り始めた。


「ちょ、ちょい待ちベイビー! 真顔でそんなっ、あふん!?」

「声を裏返すな声を」


 さながら粘土細工の如くこねくり回されるキールは変な声を発しながら、時折快感を得たような面まで浮かべている始末。もう一発食らわせてやろうか。

 とはいえこのままでは話が進まないので、シュフュシュの頭に手を置いてこちらを気付かせ、その動きを一旦中断させる事にした。


「なぁシュシュ。すまんが、兄ちゃんこいつと少し話があってな。遊んでたとこ悪いけど離してやってくれないか?」

「終わったら、また貸してくれる?」

「おぅ」

「人をモノ扱いしねーで下さる?」


 どうやらシュフュシュの中では玩具程度の認識に留まってしまったらしい。

 これに頷いて応えるとキールはシュフュシュの触手からようやく開放され、その白い身体に跡を残したまま浮遊を再開する。


「うひぃ、最近の若いモンは遠慮ってヤツを知らねーで困るわい」


 何とも年寄り臭い発言をした後、触手の跡を膨らませて元の綿菓子姿に戻るキール。


「見た目からして舐められそうだしなお前」

「ンなことねー。嬢ちゃんみてーな小さなお子さんにゃもっぱら評判良いんだぜこのボデー」

「それは単に遊ばれているだけじゃあ」


 まぁ、本人が誇らしそうにしているのならこれ以上は野暮か。


******


 ひとまず廊下から場所を移して話を戻すことに。

 現在地は俺の部屋。グロウグリアスによって破壊、または燃やされた箇所はその日の内にシオンによって修繕されている。

 魔法ってやつは本当に便利なもので、シオンはその時散らかっていた残骸を媒介にして、壁やカーペットを瞬く間に修復させていった。パズルのピースを一気にはめ込んでいくようなあの光景は思い出すだけでも小気味良い。

 聞けば無機物にも魔力素が含まれているらしく、それを通じて魔力を精製させて元の場所へ戻れ、空いたスペースを埋めろ、といった風に仕向けたそうな。


『まったくあの馬鹿者め、余が寛ぐ場所を何だと思っておるのだ』


 などと何時ものように不満を垂れ流しながら、そうして直してくれたこの部屋に俺とキールは居る。

 シュフュシュも途中まで着いて来ていたんだが、道中でギュッセルに発見されてしまい、そのまま何処に連れ去られてしまった。

 何度もこちらを振り返る素振りが胸に痛かったが今回ばかりは目を瞑るしかあるまい。また今度、キールでも貸して遊んでやろう。

 

 椅子とテーブルの卓上にそれぞれ腰を落ち着けた俺達は、まずはこちらから先程話しそびれた内容を説明する事にした。

 シオン達が転移した直後に起きた身体の不調から始まり、それからこの世界に転移をし、シオンに引っ叩かれて覚醒するまでの経緯。それと念の為、キールと会わなかった期間内に起きた出来事を含め一通り話していく。


「──ってな訳だ」

「ははぁ。なるほどなー」


 腕を組んで話を聞いていたキールは目を瞑って頭部辺りを傾げ、何やら小さく唸りながら考え込み始める。


「うーむ。確かーにあたしに起きた症状と似てっけど、じゃー関連性があるのかどーかって言うとなぁ」

「つっても、タイミング的にはたぶん同時期なんだろ? 偶然にしちゃ変じゃないか?」

「まーなぁ……考えられるとしたらば」


 そこで言葉を区切ったキールは、俺の全身を見やって続けた。


「魔王様に注入された魔力の所為……かなぁ?

 あたしらが転移した時に何か変な反応の仕方したんじゃねぇかなー……いや、うーん、どうだろ……?」


 歯切れの悪い台詞と共に、彼の体躯までも疑念を示すように傾いていく。


「あいつの魔力ねぇ……」

「そもそもあたしはに創られた使い魔だかんなー。この生命いのちの源は、主に魔王様の魔力でもあるんよ」

「あぁ、だからシオンに近い所で休んでたのか?」

「そーいうこと」


 思わぬ所で合点がいったのはさておき。


「……それだとよ、変な話、俺とお前はシオンの魔力で繋がってるって事になるんだよな? いやほんと変な話だけど」

「なんだてめーその嫌そうな面は」

「いいから聞けって。それだったら反応どころの騒ぎじゃなくてさ。

 俺の中にあるあいつの魔力が、お前の転移魔法に同調したって事になるんじゃねえのか?」


キールが魔王の魔力によって作られた存在なら、そう考えれば症状が似ている事には話の辻褄が出来そうな気がしなくもない。

 ただし何故そんな症状が出たのか、或いは何故俺まで転移に巻き込まれたのかまでは、確証に至らないのだが。


「あーなるほど。そう言われりゃあ、おめーが転移しちまったのはあたしの所為かも知れんわい」

「え、まじ? そんなあっさり認めんの?」


 かと思ったら続いて出て来た言葉に思わず耳を疑う。


「まじまじ。だって考えてみ?

 あたしゃそもそも、魔王様の魔力の残滓を辿っておめーの世界に転移した訳じゃん?

 んで、もそうだったんよ」


 キールはそれに頷いて応えると俺に腕先を向け、そして天井に向かって指を一本指してみせた。


「異なる世界、異なる場所に移るにはそれ相応に強い力を頼らなきゃいけねー。だからあたしゃ魔王様の力を利用したんだ。要はあの御方の魔力のを、行き来する為の道標にしてたのさ。

 転移が魔力を介して発動する以上、魔王様のモンを仕込まれてたおめーは、結果的にそれに引き摺られる形で一緒に飛んできちまったんだな」


 俺でも分かるよう順序立てて話してくれたキールは自ら納得したとでも言いたげに、そう結論付けて説明を締めくくった。


「……つまるところ」


 キールに倣って小首を傾げたまま話を聞いていた俺は、やがて一つの結論に達して顔の位置を正した。


「これお前キールの所為じゃねぇな。どっちかっていうと、あの馬鹿シオンの所為だわ」


 きっぱりと答えればキールは口元を少し結びながらも、どこか神妙な面持ちに変化する。


「……うん、まぁ、おめーの言いたい事は分かるけども。もう少しオブラートに包んで欲しかったなーって」


 やや間の空いた口振りから察するに、キール自体思う所はあるらしい。あくまでも自分の所為とするのは使い魔として主を擁護するためだろう。

 ……確かに転移を発動したのはキールではある。

 ゆえに俺達に起きた謎の不調が、魔王から与えられた魔力の同調による副作用であったという事は理解出来なくもない。それに引っ張られて俺まで転移したのも、同じ様に考えれば納得は出来よう。


 ただ、俺としてはこう言わざるを得ない訳で。


「仮にお前の話が事実だとして、そもそも最初っからあいつが俺に魔力なんぞ寄越さなきゃ済んでた話じゃん?」

「そこを突かれるとあたしにゃ何も言えんわいな」

「別に責めてる訳じゃねぇよ。もう過ぎちまった話だしな」


 所詮は結果論。今更どうこう言った所で過去が変化する筈もないのだ。本来ならシオンに詰め寄るべき事柄でもあるしな。

 まぁ、あいつに聞いた所でまともな返答が戻ってくる気はしないのだが。


「何にせよ、お前に聞いてもらって良かったわ。おかげで話が色々繋がった気はするよ」


 複雑な面をして座り込む俺達だったが、こちらから口調を緩めて席を立つ。


「うむー。あたしももうちっと考えてみとくからよー。また悩み事があったら遠慮なく言うがよろしー」


 身体を伸ばして凝りをほぐしていれば、何時もの調子に戻ったキールも卓上からふわりと浮き上がった。


「こうなっちまったのも何かの縁だかんなー。同じ魔王様の魔力を受けたモン同士、せめておめーが向こうに帰るまでは世話してやんよ」

「そりゃありがとよ……って、そう、それだっ! いけねぇすっかり忘れてた」

「あン? どしたい急に」


 肝心な部分をこの期に及んで失念していた俺は、眼前に浮くキールに向かってハッとした顔を向けていた。


「なぁ、お前の転移魔法で元の世界に戻れないのか?」

「ムリー」

「えぇ」


 しかし転移当初よりあったこの淡い希望は、そんな軽い言葉で打ち砕かれてしまう。


「あたしは魔王様の魔力を辿って転移したって、さっき言ったばっかりやろがい」

「そんなつれない事を言うなよ。俺の中にだってあいつの魔力があるんだろ?」

「その残り香が少な過ぎて嗅ぎ取れんっちゅーとるんよ」


 先程の例えを出して即答しつつ、しかめっ面になったキールは続ける。


「この世界内だったらまだしも、別世界かつ不確定な場所にそんなモンを探すなんて、無数に散らばる塵の中からたった一つだけを見付け出せって言ってるようなモンなんだぜ?

 ンなもん、見付けるより先におめーの寿命がサクッと終わっちまわぁ」


 その言い分から決して出来ない訳じゃ無さそうではあるものの、当人の表情はこれでもかという程に面倒くさそうな顔になっている。


「あん時は、おめーの所に魔王様が居てくれたから辿って行けたのさ。こっちに戻って来れたのだって、歴代の魔力を幾年に渡って受けた大地があってこその物種よ」


 まさかいつかキールが言っていたという話が、ここに来て繋がるとは。


「……そっかぁ。お前がそこまで言うなら俺はもう、一生ここで生きてかないといけないのか……」

「そうだなー。おめーがそう言うのなら、そうなるなー」


 ともすれば早くも将来に悲観し始めた俺に対し、キールはわざわざ含みのある言い方をしてきた。


「……どういう事だ? お前の転移魔法じゃ無理なんだろ?」

「うん」

「うん、って、さっきから何が言いたいんだよ」


 かと思えばまたしても即答をしてくるキールに苛立ちを覚えた俺は、素知らぬ顔で宙を漂う綿菓子に向かって眉間を寄せた。

 キールはそれを受けると呆れたように肩を竦め、軽く息を吐く。


「べっつにー? いくら賢者と自負しようが、ムリムリって言ってるだけだもんよ」


 そうして続けられたキールの台詞に、俺は再びハッとして眉を戻す。


「……お前、結構性格悪いなこんちくしょうめ」

「んっふっふー? そりゃあ褒め言葉として受け取っといてやるぜー」


 溜息を吐いてそれに答えればキールは口角を上げ、してやったりとでも言いたげな表情を浮かべた。


 要するに、向こうの世界に戻るためには頼る相手を間違っていたのだ。

 この点に於いて頼るべきは賢者たるキールではなく、その主にして絶大な魔力を備え持っている魔王──シオンだという話になる。


「今度聞いてみー。たぶんビックリするくれー簡単に言ってくれると思うぜ」

「そうは言うがあいつはこっちに来たばっかの頃、自分でも戻れる確証が無いとか言ってたぞ?」

「まじか、意外とヌケてんな……まぁでも心配いらねー。此度の魔王様ってば、魔力を扱う事に関しちゃ比類なき天才だかんな。

 あたしがちっとコツを教えりゃ、あの御方の魔力なら鼻くそほじりながらでも転移出来るようになんだろーよ」

「あいつに汚ねぇ言葉を教えたのはお前か」


 かくして。

 砕かれたかと思った希望は、期待という意味合いで何とか繋がりを得そうだ。

 実際シオンなら何とかしそうな気がしてしまうのが癪ではあるが、他に頼る相手が居ないのだから頭を下げるしかあるまい。


 あとはやはり、あいつが素直に話を聞いてくれるかどうか。これに尽きる。

 頑固だからなぁ。

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