第9話 命名「メディ」

 『女神』が訪れてから数日後、村の上空に一匹の青いドラゴンが通過した。

 どうやら、そのドラゴンは紗愛とマージに目をつけているようにも見えた。


―――――†―――――


「それでは、行ってきます」

 この日も『奴』を探しに紗愛とマージは出かけようとしていた。

「気を付けてな……お前はもはやサジェレスタになくてはならないんだから」

 この数日間の間にも、魔物たちの襲撃はあったが、紗愛の活躍によって、いとも簡単に斥けらていたのだった。

「大丈夫ですって……ね、おじいちゃん。セキカトケールもあるし」

「そ、そうだ……じゃ、行ってくるぞ」

 いつしか、マージのことを「おじいちゃん」と呼んでいた。

「サーイお姉ちゃん、がんばってねー!」

 あの双子のセーバス、シーバスに見送られて村を後にした。


 村を出てしばらくしたとき、どこかからか大きな羽音がした。

「あのドラゴン……!」

 2人は追いかけると、その先で悲鳴がした。

「……あの子!」

 ドラゴンは急降下し、何かに襲い掛かろうとしていた。紗愛は杖を構えたが、

「おじいちゃん、あいつ、何が効くの?」

 魔物によって有効な魔法は異なる。その知識が一切ない紗愛は、毎回マージに確認をしていたのだった。数日前の襲撃の時も、紗愛に杖を選んで持たせたのはマージだった。

「……あのドラゴンは見たことない。だがあの色合いなら、水系統だろうか。サガムを使え!」

 サガムは、雷の魔法だ。マージが紗愛に手渡すと、あっという間に雷が発動し、そのドラゴンに命中。ドラゴンは意表を突かれたようで、羽ばたいて逃げだした。


「見つけたわ」

「……あなたは!」

 村人から『奴』と呼ばれる、紗愛を助けてくれた、頭が蛇の少女。


 その時だった。


「絶対に探すなと、言ったはずではありませんか!」

 という声がした。あの『女神』が、蛇の少女の背後に現れたのだった。

 驚いた少女は、後ろを振り向き、

「……! お、おk……」

 と言いかけるや否や、『女神』がまばゆい閃光を放った。そして右手をひらひらさせるような動きで、少女から何かを吸い取ったように見えた。


 閃光が収まった時には、『女神』の姿は見えなくなっていたが、少女はそこにいた。

「大丈夫!?」と紗愛が話しかけた。


「ほわわわ……あれ、あんた、だれ?」


 明らかに、さっき「……あなたは!」と言ったときと口調が違っていた。


「忘れたの? 私、あなたに助けられたのよ!」

「えええ、そおだっけ??」

「記憶が、なくなったのか?」とマージが言った。

「いいわ。とにかく、あなた、ここにいちゃだめよ。おうちに帰るのよ」

「おうち……なにそれ?」

「おうちを聞いてもわからない……まさか、名前も?」

「なまえ? くえるの?」

「名前のガイネンすら、忘れたのね……私はサーイ、こっちのおじいちゃんは、マージ、わかった? あなたの名前は?」

「てきとおでいいよ」

 さすがに「てきとお」と呼ぶのは憚ったので、紗愛は、例の地球での伝説になぞらえて、彼女に名前をつけた。

「あなたのことは、”メディ”と呼ぶわ」

「メディ。 あたしの、なまえはメディ」


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