第8話 Magic Loaderの珍発明?

 よくあさ、アシジあしじにすごくはやくおこされた。


「おい、とっとと起きて出かけるぞ」

「ちょ、まだどこ行くか聞いてないんだけど」

「サイダケという村だ。俺の仲間がいる。あいつは……、一応、防御魔法と回復魔法の呪胎が得意だ」

「なんだ一応て……マジック・ローダーが他にもいるのか?」

「そうだ。俺と、お前んところにいる自称『国王』、他にも3人。この世界には5人のマジック・ローダーが……あ、止まれ!」


 見ると、先に一本の木が生えていた。いや、生えていたという表現は適切ではない。根っこを足のように動かしながら歩いている。

「さて、アイツは善の魔物か悪も魔物か、わかるか?」

「そりゃー、悪いでしょ、木が歩いているんだもの」

 そこで、昨日の杖を使ってみた、善なら青、悪なら赤になるアレだ。

 ……赤

 ほらやっぱり。

 ……青

 あ、ダメだ。そうだ、これはただカラフルにピカピカするだけの杖だった、俺が使っている限りは。

 不満だがアシジーモに渡して使わせると、

 ……青

 へーそうなんだ。じゃあ安心していいね。

「まだだ!」

 アシジーモは、杖をそいつの隣に生えているただの木に向けた。

 ……赤

 どゆこと?

「隣の奴はただの木に見えるが、あれは悪属性の魔物だ。近くまで行くと鋭い葉っぱを飛ばしてくる」

 なんてやつだ、そうとは知らずに通ったら大変だった……ん?

「あー! そうかー!」

「なんだよ、いきなり大声だして」

「ちょっと俺に貸してくれ!」

 その悪いほうの木に杖を向けてみた。

 ……青、赤、赤、赤、青、青

「すばらしい!」

「いや全然だろ」

「だって、これ、魔物がいたら光るじゃん! これで魔物っぽくない魔物を探せるじゃん! 俺、初めて役に立つ魔法を使ったんだー! いえーい!」

「……ほんとにおめでた……ポジティブな奴だなお前」


 俺はテンションがあがったまま駆けていくと、また何か見つかった。

「あ! あれなんだろ」

 それは、石造りのごつい建物だったが、その建物は半分以上湖に沈んでいた。

「あれは、我々人間には入れない建物……ときたま、浮き上がってきて、魔物たちが出入りするらしい。近寄ったらなにされるかわからないぞ」

 おお、そうか、そいつはまずいや。今後と物語が中盤にさしかかっても絶対に行かないようにしよう。



 昼過ぎ、やっとこさで目的地のサイダケの村に到着。早速第一村人が出迎えた。気の良さそうなおばちゃんだ。

「おや、アシジーモかい、お疲れさま……あれ、見ない顔だね」

「ああ、ちょっとコイツを鍛えてやろうと思って……イサキスは居るのか?」

「それがねー、またどっか行っちゃったんだよ、きっとカルちゃんのところじゃない?」

 カルちゃんて?

「またか! あの女好きは! しゃあない、俺らも行くか」

 うえー、まだ昼飯も食べてないのに、せっかく村っぽいところにきたのにー、と思っていたら、おばちゃんが、

「アシジーモ、待ちな、ほら、お友達が腹すかしているじゃない。昼ご飯食べて行きな」

 本当に人がよいなこのおばちゃん。バウザスにも好物のモラックの実をくれた。魔物だからとか関係ないの。


 食べていると、一人の少年が現れた。

「あ、戻ってきた! おい、イサキス、珍しい客がいるぞ」

 そのイサキスという少年——彼もだいたい俺と似たような年齢だ——には、とてもわかりやすい平手打ちの痕が残っていた。

「うぅ、カル様、どうして……、今日のは自信あったんだけどなぁ……」

「なんだよ、また変な魔法でも持って行ったのか?」

「変なっていうな! これはすごいんだぞ!」

「まあ、いいからご飯食べて落ち着け」


―――――†―――――


「どうだ、見てくれよ、名付けてフタツモハイール!」

 イサキスは一本の杖を掲げて言った。

「なんじゃそりゃ」

 と言って、アシジーモが取り上げて使うと、周囲に壁のようなものが張られた。

「……ただのフィリスタじゃねぇか」

 フィリスタは物理防御の魔法だっけな? 使えないからようしらん。

「まあまあ、最後まで話を聞いとくれよ。じゃん! これだ」

 と言って、イサキスは別の杖を出してきた。

「ツェデだ!」

「……あれって何もしない魔法じゃないか」

 何もしない魔法、っていうのは、おそらく効能がわかってない魔法ということなのだろう。

「このツェデを、こっちに使うと……こうだ!」

 と言って、ツェデの杖を、アシジーモが持っているでゅあるろーでっと? の杖に向けて使った。アシジーモが発動させると、今度はマルリスタが出た。対魔法防御だっけな? いい加減俺に解説させるのやめろ。

「どうだ! な! 1本の杖で、2種類の魔法を切り替えて使えるんだ。これなら……」

 と、興奮するイサキスを遮って、アシジーモはツェデの杖を取り上げて、

「何言ってんだ、こっちもないと切り替えられないから、結局2本じゃねぇか。アホかお前は」

「……カル様もそういうんだよお、このすごさ、誰もわかってくれない……」

「そりゃぁ平手打ち確定だわ」


 そのとき、俺はあることを思いついた。

「あのう、ちょっといいかな?」

「……誰だよお前、珍しい客とか言って男じゃんか、がっかりだよ」

「それさぁ、ミッツモハイールってのはできない?つまり……」

「……1本に3つを呪胎、ってこと?」

「そうしたら、ツェデの杖があっても2本、これで3つの魔法が使えれば、1本当たり1.5個の魔法が使える」

 イサキスは手を打って答え、

「そうだ! それだよ、それ! これなら使えるだろ! な! アシジーモ、な!」

「1.5個て……超微妙……」

「こうなったら、早速ミッツモハイールを試してみよ……」

「おい待てイサキス、コイツを呼んだのはそんなもののためじゃないんだ。コイツはな……」


「あ、そうだ!」

 俺はさらに思いついた。

「その3つの魔法の中に、ツェデ自身を入れるというのも可能だよな」

「まあ大丈夫。だけどそれって、ツェデ以外を選んだらツェデできなくなるんじゃない?」

「そこでだ、2本の杖にそれぞれ3つの魔法を入れといて、うち1つの杖は必ずツェデを選択しておく」

「うんうん」

「そうすると 、 A - B - ツェデ 、 E - F - ツェデ 、で、片方は必ずツェデを選択しておく、そうすると相手側の魔法を切り替えられる」

「ええと、例えば A が選択されていると、もう片方はツェデ で、 A→B はすぐできるよな」

「そして、 A からE (またはF )にしたいときは、 まず E - F 側のツェデで、A → ツェデ にしてから」

「 A 側のツェデ で、 ツェデ → E (またはF)!」

「いけるいける。だから、2本で実質4個の魔法。1本あたりに換算すれば2個」

「まじか! 君は天才じゃないか!」


「……何言ってんだコイツら」

 アシジーモは、完全にひいていた。

「つうか、カギン、お前魔法使えないくせにそんなことに頭回すな。おいイサキス、俺がコイツをここに連れてきたのはな……」

「え、君、魔法使えないの??」

「そうなんだ、だからコイツが使える魔法が何かって探しにきたんだ、ってやっと用件いえたじゃねぇか」

「おおなるほどなーって、いやいや、僕はいまからミッツモハイールを実験して、明日カル様に見せに行くから忙しいの!」

「よし、イサキス、俺も手伝ったるわ」

「ってカギン、お前何を手伝うんだ」

「ほら、見てみ」

 イサキスがフタツモハイールな杖をもっている……今はマルリスタが出るが、俺がツェデの杖をえいっとやると、フィリスタに切り替わったのだ。

「俺、ツェデ使えるみたいだぜ!」

 とドヤ顔でアシジーモに言うと、

「いやいや、本体のフィリスタとマルリスタは使えないんだろ?……また微妙な魔法を習得しやがって」

 と言っているが、イサキスは、

「そう! フタツモハイールを作るには、途中でツェデを何度も発動しなきゃいけないんだ、君が横でツェデしてくれるとすごい捗るぞ! 頼んだぞ、カギン助手!」

「おまかせください!イサキス博士」


「……ダメだコイツら」

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