第3話 厄介者? 英雄?

「その女をいますぐつまみだせ!」

「魔物を支援するなど、奴の手下に決まっている!」


 紗愛が魔物に対して使ったのは、回復魔法であった。その後、村人たちが必死に応戦して魔物たちを斥け、大事には至らなかったが。


「皆さん、申し訳ありません……」


 紗愛が平身低頭で謝っても、村人たちは怒りをさらに露にしていった。


 そんな中、

「静まれ!」

 と叫んだのはマージであった。

「この子は、昨日この世界に迷い込んで来たばかりなんだ。そのような者が、我々をなんとか助けようとしてやった事を、あまり責めるんじゃない!」


「村長……その女、転移者ですか?」

「まさか、奴もここに転移して来たのか?」

「奴の転移にそいつが関わっているとしたら……」

 村人はまたぶつぶつ言いだした。


「互いにつぶやくのはよしなさい。とにかく、この子は私が預かる。根拠なく人を決めつけるのは絶対に慎むこと」


―――――†―――――


 マージの家に戻った紗愛は、改めて、部屋中の杖について説明を受けていた。


「サーイ、お前がさっき使った杖は回復魔法のレジムだ」

「……すみませんでした。知らずに使ってしまって」

「仕方ない。お前の住んでいた世界には魔法はないのだろう」そう言って、周りの杖を取り上げながら続けた「こっちにある杖は防御魔法、物理防御のフィリスタ、対魔法防御のマルリスタ。こっちは攻撃魔法。……魔物には様々な種族がいる。炎系統、水系統、土系統、いろいろだ。奴らにとって苦手な魔法を使って追い払う必要がある。炎系統にはウィリュム、水系統にはサガム、植物系統には、フィレクトというように」

 聞いたこともない用語を連発されて少々戸惑った。しかも、そう説明しているさなかにも、村人が入ってきては、

「村長、テネパラド下さい!」

「アルダミが抜けてしまったんです。また呪胎してもらえますか?」

 などとこれまた聞いたこともない用語を言っては、マージのもとに杖を持ち寄ってきている。

 マージは、杖に向かって何か呪文のようなものを唱えると、持ち主はありがたそうに持ち帰って行った。

「じいちゃーん、マルリスタちょーだーい」「ボクもー!」

 さっき戦闘に参加していた子供たちも来ていた。彼らは双子のようだ。


「マージさん、さっきから何をされているのですか?」思い切って聞いてみた。


 マージはしばらく黙ったのち、口を開いた。

「私は……マジック・ローダーだ」

「マジック・ローダー?」


「この世界の魔法は、すべて杖に『呪胎』してから使う。それができるのは、この村には私しかいない」

「呪胎?」

 聞くと、この世界では魔法を使う者が直接呪文などを唱えるのではなく、マジック・ローダーと呼ばれる選ばれた者が、杖に魔法を込める――呪胎する――ことでのみ使えるようだ。


「この辺りには魔物が多いからな。サーイも魔法を使えるに越したことはないだろう」

「マージさん、魔物と言えばなんですけど」

「何だ?」

「実は、私がここに来た時……」


 その時、またギールが飛び込んできた。

「村長、大変です! また魔物が」


―――――†―――――



「この少女は、村の英雄だ!」


 先ほどマージから説明を受けたばかりの、フィレクトという炎が出る杖を紗愛が使うと、炎が一斉に魔物たちに向かって飛んでいき、すべての魔物を焼き尽くしたのだった。その魔力たるや、村にいるどの若者よりも強力であった。


「これなら、奴に対抗できるぞ!」

「そうだ、こっちから奴を探して、仕留めることもできるんじゃないか!」


 まだ昂ぶりが収まらない村の人々に、今まで気になってことを聞いてみた。


「皆さん、ずっと仰っている、『奴』って、何者なんですか?」

 ギールが答えた。

「サーイ、よく聞くんだ。最近この村の周辺で恐ろしい魔物の目撃情報がある。蛇の頭を持った女だとかいう……」


「蛇の、頭……、ですか?」紗愛の表情は曇った。

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