第4話 序盤の謎解き

 俺は、追い出された魔物を追って町の外に出てみた。ほどなく、傷を負っている魔物の姿が見えた。倒れていて、動けなくなっている。


 魔物は青いドラゴンだった。ちゃんと飛べそうな翼も生えている。


 このドラゴンを助けたら、人間一人は軽く乗せて飛ぶことはできるだろう。もうこの『国』にいるのもまっぴらなので、こいつと家出しよう、と考えたのだ。


「おい、大丈夫か?」

 俺はドラゴンに、まるで、70歳を超えている老人が気を失った少女に対して話しかけるような台詞で話しかけてみた。この世界の魔物は人間の言葉を理解する種族、言葉を発することもできる種族、いずれもできない種族など様々であるが、このドラゴンは呻きながらこちらを向いた。ある程度、言葉を理解しているかもしれない。


 彼はわずかな力を使って起き上がり、遠くを指さすような仕草をした。その先には薬草の木があった……て書くと、そこに取りに行くまでの簡単なお仕事に読めてしまうのだが、そうではない。


 この町——ルカンドマルアは、全体が天空の浮遊大陸になっていて(詳しくはマップみてちょうだい。俺が今いるのは5番と6番の真ん中のあたりね:https://kakuyomu.jp/users/hoge1e3/news/16816700426324974783)町はずれまでくると、その大陸の縁がすぐに切り立っている。その先には、おそらく大陸から欠けたであろう小さい小島がたくさん浮かんで、こちらに近づいたり離れたりしながら動いている。さっき彼がゆびさした木は、その小島の1つの上に生えていた。


 つまり、俺はその動く小島群を飛び乗って木までたどり着かないとならんのだ。もちろん、下は落ちたらどうなるかわからん奈落の底だ。上から見たら浮島と奈落の地面が多重スクロールするアレだ。


 とはいえ、俺としては彼を助けて家出ライフをエンジョイすべく、危険を顧みず浮島を飛び移ることにした。


 木のあるところまでを最短で目指そうとしたが、なにぶん浮島の連中、よく動きやがってなかなかたどり着かない。しかも、微妙に距離があって、飛び移れそうで飛び移れなさそうな浮島もあるのだ。

 だからといって、試しに飛び移れないか試してみようなどと思ってはいけない。だって、飛び移れなかったら落ちるだろうし、落ちたら死ぬだろう。誰ですか、死んだらもう一回やり直せばいいじゃんとか言うのは。そんな話は、魔法の世界だろうと絶対にないですよ(俺使えないし)。

 これは、きっとあのドラゴンを助けたあと、彼の翼で飛べるようになったらもう一度ここから飛べ、という制作者の意図レベルデザインに違いない。今は遠回りしてでも近い島同士を渡らなければならない。多分助けたら2度と使わないだろうし……なんてことを考えつつ飛び移っていたら、木のところまで着いてしまった。


 薬草をひとしきり刈り取ったところで、さて、戻るとするか……というか、ドラゴンの飛翔力ならこの島全部飛び越せるな、じゃあさっきの微妙に距離がある島は特に意図がないのかな……なんてことを考えつつ飛び移っていたら、ドラゴンのもとに戻ってきた。


 傷を負った右脇腹に薬草を塗ってあげると、彼は程なく起き上がって、俺に乗れと言わんばかり。お言葉に甘えて乗ると、彼はすでに翼を広げて、浮島群のほうへ飛びあがっていた。やったぜ! と思った束の間、小さい浮島の1つに着陸してしまった。どうやらまだ腹が減ってて、長くは飛び続けられないらしい。なるほど、これでさっきの微妙に距離がある島を乗り継いでいくという作りだ。

 新しく行けるようになった小島にたどり着くと、ドラゴンの好物とされる、モラックの実がなっていた。これを食べに来たのか。で、お腹がふくれるとより長く飛べるようになって、行動範囲が広がると。うん、序盤の謎解きとしてはいいんじゃないの?



 俺はこのドラゴンに、バウザスという名前をつけた。実は彼に名がつくのはもう少し後なのだが。


挿絵: https://kakuyomu.jp/users/hoge1e3/news/16816700428172561231

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