変わらなかった想い

 ラウォークのおじさんは、まだ年端も行かないイサキスと私に、この重い話を滔々とうとうとしたのだった。


「わかったかい、イサキス、カルちゃん、ダメだからね」


 こんな ただのおよめさんごっこに まじになっちゃって どうするの。

 そう思ったが黙って聞いていた。


「カルさま……とうちゃん、なにいってたんだろね」

 5歳のイサキスには、何だかわかるわけなかった。

「イサキス、さっき私が言ったことは、冗談だからね。あれは、お嫁さんごっこだから」

 それを聞いたイサキスは、たいそうしょんぼりしていた。


―――――†―――――


 それ以来、私とラウォークおじさんの間には、微妙な空気が漂っていた。

 冗談の通じない、気難しいおじさん。


 あれは、ただの……ただのお嫁さんごっこ。そんなこともわからない、おじさん。


 そう思っていた。


 そう思っていたかった。



 私があの日から刺さっていたとげは、それとは違うものだったのに、そうやって誤魔化してきた。


 本当に刺さっていた棘……

「私は、イサキスとは結婚できない」

 

 勿論、そんな子供の時の約束、反故にしたところで誰も傷つかないし、思春期になったら、気は変わるもの。お互い、好きな人ができたりして。

 そんな希望――そう呼ぶことは著しく不適切だが――を抱いていた。



 変わらなかった。

 21歳になった今でも。


「私は、イサキスとは結婚できない」

 この棘は、私に未だに刺さっている。

 ラウォークおじさんをこのことで責めるのは、的外れであるが、その棘を植えていったことは間違いないのだった。



 私は、イサキスが好きだ。

 

 幼なじみとして、ずっとそばにいた。

 私が、父上、母上を失ってからも、彼は、変わらず、私のそばにずっとい続けてくれた。

 普段は頼りないが、私の身に危険があると、いの一番に駆けつけてくれる。この前、ゾジェイ達が襲ってきたときもそうだった。

 猫のおみやげより役に立たない魔法を持ってくるが、どれも愛嬌があった。

 彼が帰った——たいていの場合、平手打ちして追い返した——後、そんな魔法が呪胎された杖を取って、うっとりしたと思ったら、急に虚しくなったりして。当てつけのように、ラウォークおじさんに売っぱらったりして。


 

 この虚しさ、消えることはないだろう、と思っていた。

 しかし……「福音」が訪れた。思ってもみない形で。

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