妃殻歴 1639年。今から約350年前。


 世界は祝福に溢れていた。


「アルスタット様! ラウィリア様!」


 史上初のことだった。マジック・ローダー同士の結婚。

 誰もが、新しい世代のマジック・ローダーに期待を寄せた。


 ほどなくして、この夫婦には2人の息子に恵まれた。

 誰もが、期待した。


 史上初、マジック・ローダーの兄弟。


 これまで、マジック・ローダーはその子どもたちに、呪胎能力を受け継いできた。

 しかし、奇妙なことに、何人兄弟姉妹がいても、呪胎能力が受け継がれるのは1人だけだった。


 皆、こういう仮説を立てていた。

 父親、母親、片側だけがマジック・ローダーだから、子供にも1人しか受け継がれないのだろう、と。


 だから、父親、母親が両方マジック・ローダーなら、兄弟2人とも、マジック・ローダー。


 そう思っていた。ところが……


 やはり、呪胎能力が芽生えた子供は、1人だけだった。しかも、弟のほう。


 マジック・ローダーたちは、ゾルゾーサに集まり、緊急の会議を開いた。


「このままでは、6人のマジック・ローダーが維持できなくなる。これは由々しき問題だ」


 これまで、現役の6人のマジック・ローダーたちは、1人1人別の家庭を築いてきた。だからこそ、「マジック・ローダーは6人」が維持できていた。

 しかし、マジック・ローダー同士の夫婦が生まれたことで、家庭が5つに減少……そこに生まれた跡継ぎは、5人。


「至急、新たな6人目を、遺伝によらない方法で確保しなければならない」


 そこで、新たにマジック・ローダーになるために有志を募り、対人呪胎を行った。

 もちろん、それには犠牲が伴った。対人呪胎に失敗し、魔物になった者は多かった。

 辛うじて、良識を持った半人半魔のマジック・ローダーを確保したのは5年後であった。その後、生粋の人間のマジック・ローダーを取り戻すまで、さらに100年を要したという。


 それはそれで、犠牲だったかもしれない。

 だが、犠牲者はそれだけではない。


 アルスタット、ラウィリアの間に生まれた長男。彼は弟を恨んだ。自分に受け継がれなかった呪胎能力を、弟に奪われた、彼はそう考えた。

 弟を暗殺しようとしたが、それは未遂に終わり、代わりに彼自身が処刑されることになった。


 弟も弟で、後年、兄を処刑したことをずっと悔やみ続けたという……


―――――†―――――


 この悲劇の後、マジック・ローダーの守るべき掟が、追加された。

「マジック・ローダー同士の結婚は、これを認めない」

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