お嫁さんごっこ

 私は、ザガリスタに帰る途中、ゾジェイ達に出くわした。私達マジック・ローダーを襲ってきたゾジェイに。


「おい、カルザーナ!」


 このドラゴンは飛翔力を特別に強化してある。いざという時には全速力で逃げられるように、囲まれないような位置取りをした。

 しかし、奴らはこう言ってきた。


「サーイの言葉、信じていいんだな?」


 この前ゾジェイに出くわしたとき、共にいたサーイはこう言っていた。


≪みんな、ごめんね……私はもう、あなたたちを殺すつもりはないわ……だから、この人たちに危害を加えないで。お願い≫


 奴らが恐れているのはサーイ。私達は彼女に協力したことで、奴らに狙われていた。だが……もはや「おじいちゃん」を取り返したサーイが、奴らを殺めるメリットはないはずだ。


「ああ、もちろん。彼女は嘘をつくような子ではない。お前らも襲われることはもうないだろう」

「へん、そうか、だったら……また、ザガリスタのうまそうな肉でもいただいていくぜ!」

「……ほどほどにな。もし、町の民に何かあったら承知しないからな!」

「おめぇらこそ、俺らのナワバリを荒らしたら、今度こそ勘弁しないから、覚悟しろよ!」


―――――†―――――


「カルザーナ様! ご無事だったんですか」

「ああ、心配かけてすまなかった。いろいろあってな。ゾジェイの連中とも話はついた」

「お屋敷は……崩れてしまいましたが」

 ザガリスタの私の家は、無残な姿になっていた。

「そうだな……どこかに仮設の執務室でも立てなければ」


「カルちゃん!」

 そうやって声をかけてくるのは、ラウォークおじさん――イサキスの父親で、今は武器屋をしている――だった。

「しばらく、うちで暮らしたらどうだ? 部屋なら余っている」


 ラウォークおじさんは、とても親切に世話をしてくれた。

 しかし、私は、どうしてもおじさんに対して嫌な感情を持ってしまうのだ。


―――――†―――――


「わたしね、大きくなったら、イサキスのお嫁さんになってあげる!」

「ほんと!? カルさまー! うーれしーー!」


 この時、私は11歳、イサキスはまだ5歳だった。


 イサキスは喜んで、父親のほうに駆けていって、


「ねぇねぇ、とーちゃーん、カルさまがねー……」


 そういうと、父親は真顔でこう言ったのだ。


「だめだイサキス、それはあってはならない!」

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