受け入れがたい福音
「カルザーナ」
「アシジーモ……サーイまで。何の用だ」
サーイは、何やら分厚い紙の束と……大きな杖を携えていた。
「……キュレビュ、返しに来ました」
「……それだけか? 用事は」
「……」
そうではないことは、分かっていた。
「……アシジーモ、しゃべったな」
「お前ら、そろそろ本音で語りあってもいい頃合いだろう……ナタデココでも食べながら」
「……ついて来るなよ」
「わかった。あの
私とサーイは、例のカフェまで行って、この前頼んだ通りのメニューをテイクアウトして、私の家の裏庭、池の畔に行った。
「さて、再開しましょうか……コイバナの続き」
サーイが口を開いた。
「まず、申し訳ございません。あなた方を危ない目に遭わせてしまって」
コイバナだって言っていたのに、謝罪から入ってきた。
「それはお前のせいじゃない。ベルツェックルのせいだろう」
それを聞いたサーイは、なにか不服そうだった。
「……やっぱり、カル様まで、そうおっしゃるのですね」
「やっぱり?」
「アイツもおんなじことを言った。『サーイのせいじゃない、ベルツェックルだ。全部アイツのせいさ』なんて……私、もううんざりなんです。そんな風に同情されるなんて」
そうしたら、すごい剣幕でこちらを見てきて、まくしたてて来た。
「一体、なんなんですか! 私がエグゼルアに呼ばれた目的って。『女神』だの『国王』だのに利用されて、挙句の果てには信頼できる仲間に危害が及んでしま……いや、あなたたちも信頼できないです! おじいちゃんを追放して、捜すどころが妨害までして。もう、何もかも面白くない……何か一矢報いたいと思ったんです。だから、アイツを利用することにした」
一体なんなんだってこっちが言いたい。コイバナどこいった、と思っていたら、こっちをビシッと指さして、
「カル様、やっぱりあなた方には滅んでもらいます。アイツが『滅びの魔法』を作れば、それが実現します。アイツが代わりに新しいマジック・ローダーになるんです!」
コイバナどころか、我々への最後通告だったのか?
「……なのにアイツときたら、女神が怖いだのなんだと言って、尻込みするんです。いい加減にしてほしかった。今までルカンドマルアで『魔法も使えないデクノBar』と呼ばれ続けて、ずっと惨めな思いをしてきたのに、今、そこから抜け出せる絶好のチャンスなのに。だから、私はアイツをひっぱたいてでも完成させたいんです。絶対に……アイツが設定したお約束なんかに、私は負けません! だって……
それから、もう何度か「だって……」と言ったあと、
「私、アイツをひっぱたいた時、気づいちゃったんです……彼を愛しているって。そしたら、涙がとめどなく出て来て……バカバカしい。よりによって、こんな世界の人間を好きになったって、どうせ結ばれないのに、なんて虚しいことをしているんだと。でも……」
やったコイバナになったと思う間もなく、サーイは私に飛びついてきて、叫んだ。
「カル様……あなたたちは違う! あなたたちは幸せになれるのに……何
「『滅びの魔法』があれば、か?」
……そう。滅びの魔法さえあれば、我々マジック・ローダーは存在価値などなくなる。マジック・ローダー同士が結婚したって、誰も困らない。
でも、それでいいのだろうか。
700年続いた、マジック・ローダーの最期が、それで。
父上から譲り受けた、この
「ダメだ! 絶対にできない!……こんなことしたら、父上はお怒りになるだろう!」
「カル様、だったら、お父様に聞いてみては?」
は?
「何バカなこと言って……父上は……」
「だから、持ってきたんです」
サーイはキュレビュの杖を改めて差し出した。
「これは、違う! ただ、過去に、父上の想い出に浸るだけの、虚しい魔法だ」
「想い出も、悪いものばかりじゃないですよ……」
ん? サーイのやつ、
「ただ、私一人では、映像と音声がクリアじゃないんです……カル様、私と一緒に持ってください」
キュレビュは大きいので、2人で持つのは容易い。
池の水面に、映し出される。
「「……これは!」」
父上が魔物に襲われて亡くなる、ほんの3日前だった。
私は、無意識のうちに、その周辺の記憶を蘇らせることを避けていたのかもしれない。
サーイの魔力と、私の記憶によって蘇った、今まで聞いたことのない、父上と……「おじいちゃん」の言葉だった。
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