第51話 説教するMagic Loader

 サーイとイサキスは、ザガリスタの門の入り口まで来た。門番がいる。


「イサキス様、性懲りもなくまたおいでいただいたのですね」

「ああ、えーと、今日はちょっと違うんだ」

 と言って、サーイの方を見た。


「あの冠は……ガイトゾルフ!」


 門番はサーイのほうに歩み寄って言った。

「お引き取りください……いくら勧誘されても、カルザーナ様はその気はありませんので」


「勧誘?」


 イサキスが「あ、それも違うからさ! とにかく開けてくれ」


「イサキス様、いいかげんにしてください。私どもの立場っていうのもあるんですから……この前も、イサキス様が変な……ユニークな魔法をお見せになられた後、カルザーナ様にこっぴどく怒られたんですよ! ましてや、ガイトゾルフを黙って通したとなったら……もう、私本当にクビになるかもしれないってのに……今日という今日は、通しませんよ!」


 そう言って、結構な時間押し問答になってしまった。



「何を騒いでいる!」という声がするまで。


「カルザーナ様!」


「何だ、またイサキスか。これ以上門番に迷惑かけるなと……ん? そいつは……ガイトゾルフか。名前は?」

「サーイです。サーイ・ライガ」

「親書に書いてあった者だな。よいだろう、通りなさい……イサキス、お前はダメだ」

「えええー! カル様そんなー! つれないなぁー」

 門番たちはイサキスを羽交い締めにして追い出そうとした。


「待ってください。イサキスさんはここまで私を案内してくださったし、私にとって必要な魔法を用意していただけると言ってくださった。そのためにカルザーナ様の力が必要だと……」

 とサーイが言うと、

「は? イサキスが? 魔法をくれる?」

 カルザーナはサーイを呼び寄せて小声で「ちょっとあなた、騙されてない? アイツがくれる魔法なんて、なーんも役に立たないもんばっかりなのに」

 サーイも小声で「ええ、まあ、いくつか紹介されました。オクレールだの、ダイブーツだの……」

「でしょ!? そのネーミングからしてどうかと思うじゃない?」


「おーい、何こそこそ言ってるんですか! サーイさんがいいと言ってるならいいんじゃないスかー!?」


 カルザーナは諦めて、「……勝手についてきたけりゃきなさい」と言った。



 サーイはカルザーナの邸宅に通された。イサキスは勝手についてきた。


「ベルツェックル様が親書まで送られてきたのだから、無碍むげに扱うわけにもいかない。サーイ、だからこうして、私の部屋までは案内した。だが、」

「だが……何でしょうか」

「我々が、ガイトゾルフの都合のよいように動くと思ってもらっては困る……そうだろう? イサキス」

「は、はいっ! カル様! まったくもってその通りだと思いま……」

「そうか」カルザーナはイサキスの方へ詰め寄り、


「だったら聞こう、イサキス。お前はなぜこの女をここまで案内などした? お前はいつもガイトゾルフなんか毛嫌いしているはずだが?」

「えーと、それは、ですね……えーと…………あー、わかったー!」

「何がだ?」

「カル様ぁー、そんなこといって、ほんとは妬いてるんでしょー、僕がかわいい子と一緒に来たからって……ぐはぁ」

 サーイは一瞬目を覆ったが、次に見た時にはイサキスは倒れこみ、頬には平手打ちの跡が。


「愚か者! お前の女の好みなんて、どーーうでもいいんだ! 許せないのは、お前はいつもそうやって、自分の信念と違うことを平気でやることだ!」


 その後、サーイの方を見て、

「邪魔者は消えた……話を続けよう。先程あのようなことを言ったが、私はサーイを敵だとは思っていない。さりとて、味方とも思っていない。だからこそ聞きたいんだ」

「はい……」

「何故だ? なぜガイトゾルフになろうとした?」

「……おじいちゃんです」

「おじいちゃん?」

「私の大事な、唯一の家族を、魔物がさらっていったんです。私はただ、おじいちゃんを助けたくて……」

「憎いか?」

「はい?」

「そのおじいちゃんとやらを、さらった魔物が、憎いか、と聞いたんだ!」

「とんでもありません! ……元はといえば、私が悪いんです。憎む対象があるとすれば、それは私自身です」

「ふーん、そうか……サーイは、ガイトゾルフ失格だな」

「え?」

「とぼけたって、ダメだ。私はガイトゾルフからの誘いを受けたこともあるから、知っている。ガイトゾルフの戴冠式で、必ず誓わされる約束があるだろう」

「『汝は、人間を愛し、魔物を憎むか?』、ですか?」

「そうだ……その約束を、サーイは、破っていることになる!」


「それは……」

 サーイが黙ってしまったので、カルザーナは、さらに続けた。

「どんな組織に属していようと、その組織が決めていることには、たとえそれが自分の信念に合わなくても、守るべきではないか? あるいは……それを守るには自分の信念が違いすぎるなら、最初からそこに属すべきではなかったのではないか?」


 そのとき、

「ザガリスタのマジック・ローダーよ。あなたは私が選んだ者をなぜ、そのように責めるのですか?」

 という声がした。


「クペナ様!」サーイは叫んだ。


「この人は……、親書に書いてあった、ベルツェックル様の新妻?」


「サーイは……人を憎むことを知らない子です。その『人』たる対象が『魔物』にまで拡張された。それだけのことです」


「何だって? それはガイトゾルフの信念とは相容れないはず……」

「必要な魔法を与えるように、といったはずです。つまらない理屈を述べるのは、後にしてもらいたいです」

 そういってクペナは見えなくなった。


「……ぃてぇ。カル様、今日は特別に痛いっすねぇ、やっぱり嫉妬の力ってすっごいんですねぇ」

 イサキスがようやく起き上がった。

「うるさい! どいつもこいつも、信念のない連中ばかりで……ん?」


 部下の一人が駆け込んできた。

「カルザーナ様、大変です!」

「どうした!?」


「正体不明の魔物の目撃情報が入りました!」

「何!?」

 カルザーナは急いで外へ飛び出して行った。

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