第49話 腰を抜かすMagic Loader

 サーイは、イサキスに連れられて村を出発した。


「イサキスさんの尊敬する方って、もしかして、ザガリスタにいるマジック・ローダーですか?」

「あ、ご存知!? そうですそうです。あの方は攻撃魔法が得意ですから! 僕のツェデとコラボすれば、サーイ様のお望みの杖ができるはずです!」

「ありがとうございます」

 一本の杖に4つの攻撃魔法が呪胎できる……これは多少なりとも魅力的であった。混成群が来たときに、相手に応じて素早く切り替えができるようになるからだ。


 イサキスはお礼を言われたのか、調子づいて続けた。

「あ、でもですね、1本の杖に4種類、それにプラスしてツェデの杖1本、だと2本で4種類、実質1本につき2種類、ということになってしまいますけど、実はもっと集積度を上げる方法があるんです。……僕にもかつては優秀な助手がおりましてですね、彼の発案によれば、2本に6種類、実質1本に3種類を入れられる方法がありまして……」

 といって、その後も何やら複雑なことをしゃべっていたが、

「ごめんなさい、よくわからなかったです……」

「あははー、ですよねー」



 しばらく歩くと、二人の前にクペナが現れた。いつもの、半透明で、宙に浮いている状態で。


「サーイよ、イウカーマ討伐への準備は順調ですか?」

「はい、なんとか……」

 イサキスは最初こそ驚いたが、その後冷静になって言った。

「ああ、ホザログラフ遠隔投影か……誰だこいつ?」

 サーイはイサキスの言葉遣いがあんまりだったので、イサキスの前に立ちはだかって小声で言った。

「ベルツェックル様の新しい奥様、クペナ様です」

 イサキスはそれを知ってもなお、

「ああ、手紙にこれ見よがしに書いてあった、女神ヤロウ……」

 などとつぶやいている。


「あなたは……サイダケのマジック・ローダーですね?」イサキスにクペナが話しかけた。

「ああ、そうだが」

「サーイに必要な魔法を、きちんと提供するのですよ」

「言われなくても今やってるとこだ! なんだその上から目線は!」

「イサキスさん、ちょっと……」サーイはなだめた。

「私は大丈夫です。あなたが必要なことさえしてくれれば……」

 といって、クペナの姿は見えなくなった。


「イサキスさん、どうしたんですか、あんなに怒ることないのに」

「僕は、基本ルカンドマルアにいる連中が気に食わないんですよ、ガイトゾルフの連中も……」

 といって歩き出した。


 歩き出してからかなりしばらくして、何かに気づいたようだ。

「あ!!! でも、サーイ様は別ですよー。あなたはあの人たちとは違いますってー」


 そのとき、再び半透明で、宙に浮くものが現れた。

「やっほー、サーイさんおはよおー!」

「あ、メディ! おはよう」

「あれれ? 初めてみるひとが……」

「おわああああああーーーーーーああああああ!!!!!」

 イサキスは驚きのあまり腰を抜かしたようだ。


「ななななんだこのへへへへへへの、びびびびびびの、ああああああたまは!」


「あはははー、コイツ、アイツに負けないくらいいーリアクションじゃないー」

「なな、なんだコイツとかアイツとか……」

「メディ、だめよそんなこと言っちゃ。この人はアイツとは違って、マジック・ローダーなのよ」

「そおなの?」

「いっ、いかにも、だ、うわ気持ちわる……」

「ごめんなさいおどかして、大丈夫。メディは私の友達なの……メディ、紹介するわ。マジック・ローダーのイサキスさん」


「へー、なんかたよりないけどなー」

「そんなことないのよ、彼、珍しい魔法が呪胎できるみたい。一本の杖に4種類の魔法が呪胎できるっていう……」


 そのとき、半透明で宙に浮く者がもう一人入ってきた。

「あれー? 3種類じゃなかったけ? バージョンアップしたのか?」


「「あーーーー!」」

 サーイとイサキスが同時に叫んだ。

「「カギン! なんで{あなた|おまえ}がここにいる{のよ|んだ}!?」」

 そして、顔を突き合わせて、

「「……知り合い、ですか?」」


「し、知らないです。こんな男のことは……」

「僕も、絶対知りません。こんなヤツは……」


「おーい、久しぶりだったからって忘れたのかー、お前の優秀な助手だったじゃないかー」

 両者が知らないと言い張る男がそう言ってきたが、イサキスは、

「だから知らないと言っただろ!」

「え? イサキスさん、もしかして、さっき言ってた助手って……」

「えー、そんなこと言いましたっけなー」


「なに二人で茶番をしてるんだ、ええわ。いいこと教えたる。じいさんは……」

「やめーーー!」メディが突然、突き飛ばした。そしてメディの姿も見えなくなった。



「ふー、一体なんだったんだあの連中は……、サーイ様、行きましょう」

「イサキス、ちょっといい?」

「? あれ? 急にタメぐちですか?」


 サーイはイサキスの両肩に手を置いて、ゆっくりと言い聞かせるように言った。

「ごめんね、私、本当はアイツのこと知ってんだけど……とにかく、わけのわからない奴なの。だから、もし、イサキスもアイツについて知っているんだったら、正直に話してほしい。私、おじいちゃんを捜すために、どんな些細な手がかりでも欲しいから」


「そうだったよ……カギンは、短かったけど、僕の助手をしてくれたんだ」

「やっぱり、そうなのね」

「このツェデという魔法、最初は、1本あたり2種類しか呪胎できない代物だった。それじゃあ役に立たないと周りはバカにしたんだけど、カギンが『3種類イケないか?』と言ってくれた。そしたら、僕と一緒に徹夜までして、1本に3種類呪胎できるようにしてくれた……4種類できるようになったのは、あのあとだった」

「あのあと?」


「……見ただろ? アイツ、手になにか板のようなものを持っていた。あれはトゴリーティスと言って……あれを使えば、なんだってできるんだ……『滅びの魔法』を作ることも。それを見た仲間たちが、カギンとはもう付き合うな、と言ったんだ」

「『滅びの魔法』!?」

 ……マージをさらった魔物たちの手紙に書いてあった。マージはそれを作らされている、などと書いてあったが、それとカギンがどう関係しているのか……イサキスの顔を伺うと、うつむき加減に、

「ごめん、これ以上言ったら、仲間を裏切ることになるから……」

 とだけ言われた。


「……わかったわ。ありがとう」

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