第6話 歓迎するMagic Loader

 俺はバウザスに乗って西に向かった。浮島群を通り過ぎると、より大きい浮遊大陸——確かウィスタ大陸とか言ったかな——見えてきた。もうすぐ隣の町(マップhttps://kakuyomu.jp/users/hoge1e3/news/16816700426324974783 の8番)に着く。

 結局隣の町といったって、魔法が使えないとあっては結局またバカにされるんじゃないのかと思っていたけど、さすがに初見の人をバカにしようもないだろう、という根拠のない自信をもって、町の入り口までやってきた。

 とはいえ、こんな大きなドラゴンを連れてたらやっぱりアカンだろう。あの(自称)国では、魔物と一緒にいるのは犯罪だし。さてどうしたものか、とおもってたら、


「あ、ドラコンだ!」


 あ、もうバレた! やばい、と思ったら、

「わー、カッコいいー!」

 と言って、町の子供たちが集まってきたのだった。しかも、勝手にバウザスの背中に乗って遊び始めたではないか。

「すげー! 翼でかーい!」

「足がボクくらいあるー!」

「このウロコ、ゴツゴツで気持ちいー」

 とか言ってあちこち触りまくっている。


 あの(自称)国では、魔物の気配がしただけで、子供たちはまっさきに家の奥に掘られた秘密の洞窟(各家庭に設置が義務づけられている)に閉じ込められるのが当たり前だったので、この光景は衝撃的だった。しかもバウザスのほうもなんかいい感じにあやしているように見えた。


「お前ら、何してんだ!?」

 と言ってこちらに来たのは、俺と変わらない歳くらいの男だった。

「なんだ、お前のドラゴンか?」

 と俺に話しかけてきた。

「あわわわ、違います違います、これは、ですね……そのう……」

「魔物と一緒にいるのがやましいみたいだな。それにお前、東の浮島群のほうから来てたよな……ルカンドマルア人か?」

 ルカンドマルア……あの(自称)国の名前だ。ていうか、ええと、ちょっとまて、なぜ東から来たことがわかる?

「お前さ、『なぜ東から来たことがわかる?』みたいな顔してるけど、そりゃレディウスくらい町の周囲に張っておくだろ。このドラゴンの内部状態も飛行中に解析した。こいつは善属性だったから、子供たちに遊び相手が来たぞ、って教えてやったんだ」

 レディウスってのは、侵入者検知の魔法だ。一応ルカンドマルアでも使われているので知ってたが、魔法が使えない俺に解説させないでくれ。


「俺の名はアシジーモ、この町エギトゥヤムのマジック・ローダーだ。よろしく」

「お、俺はカギン……ええと、マジック・ツカエナイダーだ。よ、よろしこ」

 相手がマジック・ローダーっていうビッグな肩書きを掲げてきたので、こっちもなにか肩書きを、と思って咄嗟に出て来たのがこれなんだが……ネーミングセンスは俺大概だな。

「え、魔法が使えない……だと?」

 うわぁ、やっぱりバカにされるー、と思ったら、アシジーモは目を見開いて、

「こいつはマジック・ローダーの腕が鳴るぜ! おい、カギン、しばらく俺んところでいろいろ試させてくれよ」

 なんて言ってきたのだ。要は、この世界では「魔法とは誰もが使えるもの」のはずなのに、魔法が使えないなどという、珍しい人間が来たから実験の対象にするつもりなのだ。まるで、どっか異世界から転移してきた人みたいな扱いだな! いくら魔法の世界だからって転移なんて絶対ないだろ、とか思っているとすぐに彼の家まで連れて行かれた。


 家には杖がずらりと並んでいる。

「どうだ、俺の杖コレクションは。俺は探索系の魔法なら大体呪胎可能だ」

 とか言って、このコレクションの多さに驚け、と言わんばかりだったが、俺が驚いたのはそこじゃなくて、

「マジック・ローダーの家って……こんな簡単に上がり込めるんか?」

「あー、そうか、お前んとこのマジック・ローダーは自分で『国王』なんて言ってるくらいだもんな。そんなやすやすとは見せてくれないだろう……あいつは相当うぬぼれ……というか、ガイトゾルフのリーダーという威厳を保つためにはああするしかないのかな」

 聞くと、この町では誰でもアシジーモの家に上がってきては、自分に合った杖を取って行くという、とても民主的なシステムらしい。


 さておき、実験が始まったのだが、

「さあ、この中から使えるものを片っ端から試してみな」

 という極めて雑な実験内容だった。で、端折ると、家中の杖という杖を全部試して全部びくとも発動しなかった。大成功。


「なるほど、これは強敵だな……よし、お前用に特別に呪胎させた杖を作ってやる」

 といいだすと、引き出しからブランクの(何も呪胎されていない)杖を取り出してきた。


「そういえばさ、」俺は聞いた。

「さっき、俺のドラゴンがぜんぞくせい?とか言ってたが、あれって……」

「さっきも聞いたよんだだろ、魔物には善属性と悪属性があるって」

 だから読んでませんって。属性の話だの大概なネーミングの魔法だの。第一、ルカンドマルアでは魔物=悪なので、そんなことは教えられたためしがないし。

「簡単に言うと、向こうから攻撃を仕掛けてくるやつが悪だ。おお、そうだな、とりあえず、お前にはアレを作るか」

 と言って、奥から何か巻物的なものを取り出してきた。

「原典からの呪胎なんて久しぶりだが、お前みたいな強敵相手ならこうやって丁寧にやるしかない」

 本にはなんか古代文字が書いてあるが、何て書いてあるか全然読めないや。

「……読めるの?」と聞いてみたら、もう一つ杖を取り出してきた。

「これで読めるようになる」

 解読してくれる魔法もあるらしい。

 で、アシジーモが何か呪文的なものを唱え始めた。

「へー、そうかー、マジック・ローダーが杖に向かって呪文を唱えると、そいつに魔法が宿るんかー」俺は興味津々だったが、

「ちょっ、話かけんな。お前の無駄話が杖に移ったらどうなっても知らんぞ」

 と怒られたので、しばらく黙っていると、ソルブラスとかいう魔法を呪胎した杖ができた。


「これは、善の魔物であれば青、悪の魔物であれば赤に光る、とてもシンプルな杖だ。とりあえず、お前の相棒で試してみろ」

 と思って外に出ると、バウザスはまだ子供らにつきまとわれていた。まあいいか、ちょっと狙いがつけにくいが使ってみよう。

 ……赤?

「アシジーモ、どうなってんだ?」

 アイツ実は悪者だったのか……子供たちが危ない! とか思ったら、アシジーモが杖を取り上げて、慌てて使ってみたら、

 ……青。

 おいちょっとまて、また俺が取り上げて使ってみる。

 ……青。

 よかったー、よし、もう1回使うか

 ……赤。

 なんだこりゃ、こうなったら16回くらい使うぞ。

 ……赤赤青、赤青青、赤青青、赤赤青、赤青赤

 最後の1回はどっちだか忘れたが、ともかく何の規則性もないぞ。どうなってんだ。

 アシジーモに使わせてみると

 ……青青青、青青青、青青青、青青青、青青青青

 あ、そうだ、バウザスと遊んでいる子供らに使わせてみよう。

「わー、あおーい」

「あおーい」

「きれいなあおだー」


「……おう、お前、マジで強敵だな、まったく使い物にならないじゃんか」とアシジーモも呆れ顔だ。

 だが俺はこう言ってやった。

「とんでもない! 俺にとってはこれは大きな一歩だ」

「どういうことだ?」

「俺が、杖を持って、魔法が、発動したのは、これが、初めてなんだ! 結果が合っているかどうかなんて、二の次だ! 今日は記念すべき日だ、みんなで、お祝いしてくれ!」

「お、おめで……たいやつだなお前、まあ、まだまだ実験には付き合ってもらうし、子どもらも楽しんでたから、今日はいいもん食わせてやるよ」


 その晩、俺はたしかにいいものを食わせてもらったが、お祝いの言葉はなかった。

 その晩はアシジーモの家の端っこに泊めてもらえることになった。バウザスは外のほうがいいみたいだ。

「よし、明日は出かけるぞ」

「どこに?」

「俺一人ではお前を開花させるのは無理だ……仲間の力を借りねば」

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