第5話 昼、教室
璃央は苦悩していた。
出来る事なら全て忘れてしまいたい。ファーストキスがよりによってあの女だなんて!
「大丈夫ですか?顔色悪いですよ会長」
三上飛鳥が昨日の朝と同じように心配そうに見つめてくる。
ツインテールがよく似合う美少女だ。
彼女は副会長であって、学園で璃央より小さいのは彼女一人である。
更にその可愛らしさから学園祭のミスコンの優勝候補でもある。
なんでも今から彼女には敵わないと多くの女子が参加を辞退しているらしい。
実は昨日会議が長引いたのは学園祭がらみだったからである。
「ありがとう、大丈夫だ」
優しい子だ、あの女とは大違い…ってなんで一々あの女が出てくるんだ!
璃央は頭を振り脳裏に浮かんだ涼子の顔をかき消す。
「ダメだな璃央。三上さんに心配ばかりかけてるようじゃ」
「彰…。」
七瀬彰(ナナセ・アキラ)、璃央の良き親友である。
身長は涼子と同じくらい、律儀で親しみやすくみんなから好かれている。
そして璃央の秘密を知っているただ一人の男だ。
「昨日何かあったか?」
璃央はドキッとした。彰に隠すつもりはないのだが、改めて聞かれると心臓に悪い。
ちょうどみんなお昼で学食に向かった。
近くに人がいない今がチャンスだと思い、璃央は昨日の経緯を彰に話した。
「…なんだ、それで頭にタンコブ出来てたわけか。でもいいんじゃないか、相場涼子だろ?確かに奇抜い髪の色してるけど、大企業の御令嬢なだけあって、品のあるいい顔してるじゃないか。むしろ俺と変われよ!」
おっ変な顔。
そう思いながら彰は少し口を開けて唖然としている璃央を見る。
「なっ、なんでそうなる!?」
璃央がそう言うと、彰は呆れた顔て返す。
「あのなぁ〜璃央。相場涼子って言ったらこの学園で指折りの美人なんだぞ。色恋のまったく無かったお前には願ってもない上玉だろ」
璃央は頭痛が酷くなってきた。
「冗談じゃない!なんであんな女と…。」
〝綺麗だよ会長は〟不意にこの言葉を思い出し何も言えなくなる。
「あっ、でも相場さんって確かもう婚約者がいるんじゃなかったっけ?」
「ふ〜ん、婚約者ねぇ」
良く考えずにそう言った璃央だったが、次の瞬間、思わず立ち上がり叫んだ。
「はあぁ〜!」
びっくりしたらしく、彰は首を引っ込めて机にのけぞる。
「まぁ、落ち着けよ璃央。今日は一緒に帰ってやるからさ」
それを聞き璃央はまたストンと椅子に座った。
「あんまり気にするなよ。佐々木の事も相場さんの事も2、3日すれば忘れるさ」
彰の明るい笑顔を見ながら、璃央はため息をついた。
昨日の事は、ただ単にからかわれただけなのだろうか…。
思い出すだけで腹立たしくなった璃央は、もいだ感覚が残っていないはずの唇を拭った。
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