第2話 昼、一階廊下

今日は本当についてない。

そう思いながら璃央は廊下を徘徊していた。

この学園は最近、治安が少し悪くなった。

例えば佐々木亮や相場涼子など、好き放題をする生徒が増えたからだ。

しかし彼らには大企業の親というバックアップがいるため学園側も手が出せないのだ。

だが生徒会としては見過ごすわけにはいかない。

だからこうして治安アップのために見回っているのだ。


「か〜いちょ!」


璃央はその声を聞き、嫌そうに眉をひそめながら振り向く。

相場涼子は今朝と同じように微笑みながらヒラヒラと手を振っていた。


「何か用ですか相場さん、髪は黒く染めるて来るように言ったはずですよ」


涼子はキョトンとした目で手の動きを止めた。

そして今度は意地悪く笑い出した。


「冷たいね会長。今朝助けてあげたのにお礼の一つもないんだぁ」


「助けを乞うた覚えはありませんよ」


人気の無い廊下でバチバチと火花が散る。

小柄な璃央に比べ、涼子はモデル並みに身長があるがそれに臆する事はない。

璃央曰く、身長があっても器の小さい人間はいっぱいいるから、らしい。

璃央は元々、涼子が嫌いだった。

自分と正反対の存在で、髪の色も、挑発的な性格も気に入らない。


「会長って意外と負けず嫌いだよね。そこもいいけど」


「なんですか…?」


ジリジリと壁に追いやられ、意地の悪い目で見下ろされる。


「もしアタシが、会長の秘密を知ってるって言ったらどうする?」


「…!?」


璃央は思いを巡らせる。


今朝、この女は屋上にいた。

まさか…いや、まだそうと決まったわけではない。決まったわけではないがもしそうなら…。


璃央は混乱する頭を整理しながら涼子を睨みつける。

だが、先ほどとは違い、焦りの色が見受けられる。


「何を知っているのか知らないが、俺は脅しに屈するつもりはない!」


璃央はそう言い切って涼子を払い除けるとズカズカと立ち去ってしまった。

涼子は意表を突かれたようで唖然としていた。

しかし次の瞬間、目を細めて嬉しそうに笑う。


「へぇ、やっぱりこうじゃないと面白くないよね」


昼の廊下、蝉の鳴く声がうるさく響きわたっていた。



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