リバース~Reverse~

雪兎

第1話 早朝、校舎裏

誰にだって、表と裏の顔がある。

それはトランプのカードに少し似ている。

表だけ見ても裏はどうなっているのか、裏返してみなければ、絶対に分からない。

そして僕の場合、絶対に裏返して見られるわけにはいかないんだ。



今日もまたこの桜ノ宮学園に細やかな朝が訪れる。


「そこ!ネクタイが曲がっている!直してこい!茶髪は厳禁!身だしなみの基本だぞ!」


先生や風紀委員にまじり、俺こと駒崎璃央(コマザキ・リオ)は今日も忙しい朝を迎えていた。


「見ろよ、あの鬼会長また注意してるぞ」


「チビのクセにおっかないよな〜」


ヒソヒソと陰口を叩かれるのもいつものこと。

そんな時は軽く睨みつけてやればいい。

いつもの朝、変わらない日常。

しかし今日の朝はいつもと違う事が起こった。

バシャア!と、突然落ちて来たバケツ。あまり入ってはいなかったが、思いっきり水を引っ掛けられた。


「ごめんなさーい!」


校舎上から女子の声にまじって男子の声。

大方ふざけていたのだろう。

先生が男子達を怒鳴りながら注意している。


「大丈夫ですか会長!」


副会長、三上飛鳥(ミカミ・アスカ)が心配そうに言った。


「大丈夫だあとは頼む」


そう言い残し俺は校舎裏へ向かった。


❤️♠️♦️♣️


「まさかこんな下らない理由で眼鏡を外すとは…」


誰もいないのを確認し、眼鏡を外し顔を洗う。

そう、鬼会長と恐れられる俺には秘密があった。

それは人より大きめの眼鏡に隠された、まるで少女のような素顔。

この顔と身長が低いせいで散々いじめにあってきた。

そのため、目が悪いふりをして素顔を隠すようになった。

もう二度と惨めな思いは御免だ、だから誰にもこの事を知られてはいけないのである。

しかしこの日は思わぬ誤算が起きていた。


「へぇ…面白いもの見ちゃったな」


ある女にこの一部始終を屋上から見られていたのだ。


「やれやれ、朝から酷い目にあった。」


そんな事とは知らない俺は大きめの眼鏡をかけ直し、元の場所に戻ろうとした時だった。


「おんゃ〜、誰かと思ったら鬼会長じゃないすか〜」


そこには学園の不良グループの一人、佐々木亮(ササキ・リョウ)が立っていた。


「…!」


校舎に片手で叩きつけられた。小柄な俺との身長差はかなりある。これはヤバイ。


「前々から気に入らなかったんだよ!チビのクセに偉そうにしやがって!」


やられる、そう思って目を閉じた。

鈍い音がした、だが痛みは無い。

そっと目を開くと、佐々木亮の顔にサウンドバックがずっしりと乗っていた。

佐々木はそのまま倒れた。

バックを手にして思うのは一体誰の仕業かどうかだ。

そして上を見上げると、手をヒラヒラとさせて微笑んでいるのは、学園一の問題児でその名を知らぬ者はいないとまで言われた女、相場涼子(アイバ・リョウコ)。

赤毛の長いストレートは何処いても目立つ上、高い身長は威圧感がある。

規則正しい俺とは正反対の存在。

もちろん生徒会とはあまりいい仲とは言えない、むしろ最悪だ。

俺はプイとそっぽを向くとそのまま立ち去った。


❤️♠️♦️♣️


「…。」


行き場のなくなった手を上げたまま、涼子はキョトンとした目で璃央を見下ろす。


「へぇ…気が強いのも悪くない。気に入ったよ、会長。」


涼子は不敵な笑みを浮かべながら登校して来る生徒達を見下ろす。

璃央はゾクリと身震いした。

何かとんでもない事が起こりそうな嫌な予感を覚えながら。

早朝、校舎裏。

チャイムが鳴り響く少し前の出来事であった。

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