episode2「Change Race」

 第1の稽古「鬼ごっこ」に俺はだいぶ慣れてきたらしい、最初の数日は姿も見えなかったがベリアルに指定された日まで残り1週間を目前にしてその変化は現れた。


 走りながら逃げるベリアルの姿がほんの一瞬ではあるが見えていた、これはどういうことなのかと疑問にも思ったが俺のステータスを見るとそれは一瞬で理解できた。


 動体視力が桁違いに成長していたのだ、いや動体視力だけでなくすべてが異様に増えている。


 が、なぜ成長したのかがわからない俺はここにきてまだ5日目鬼ごっこ以外に何もしていない。首を傾げ考えているとベリアルが目の前にいた。


 「なぜここまで成長したのか疑問か?それはなここの魔素が異常に濃いからというのが1つ、もう1つは貴様の悪感情が非常に強いことだ。」


 ベリアルによるとここの魔素は魔王の魔力が漏れ出しとても濃いらしいそこに俺の復讐心の塊である悪感情が反応し全ステータスが大幅に上がったとのことだった。


 「しかしこの数値は予想以上だな、これがお前の魔物としての基礎ステータスになる。ここからは魔物として鍛えていくわけだから…お前は下手したらアガレス様に最も近き存在になれるかもしれんな。」


 「俺が魔王に最も近い存在に…」


 当然実感もわかなければなぜ俺がという気持ちもあった。しかし俺は自分の目的を果たすためここに来たどんな姿になろうともその目的だけは揺るがない。


 「もっと、もっと俺を強くしてくれベリアル!いや、師匠!」


 ベリアルはふっと笑って見せると

 

 「師匠はやめろ、今まで通りベリアルにしてくれそれかベリアル様だな」


 そんな他愛もない話をしながらベリアルの後をついていく、するといかにも地下に続きそうな階段に着いた。


 「貴様には今から混血になってもらう」


 混血とは俺たちヒューマンとエルフなどの他種族との間にできる子供の血のことをいう。当然俺の両親はヒューマンなので混血ではない。


 「混血になるってそんなことができるのか?」


 「あぁ、できるとも。とは言っても私では無理だ、だからこの方に来ていただいた。」


 ベリアルは俺の後ろを指す。なんとなく予想はついていた、先程から明らかに空気が違うこの空気はあの部屋に入って以来だったからよく覚えている。


 俺の想像通りそこにはアガレスが立っていた


 「あなたが私に血を分けてくださるのですか?」


 「あのベリアルが私に初めて取引を持ち掛けてきたのじゃ受けてやらねば魔王の名に傷がついてしまうからな」


 と言葉はとても軽快だが俺にはひしひしと伝わってきていた。アガレスの怒りが、憎悪が。


 気を失いそうになりながらも感謝をいい早速混血になるための儀式のようなものが始まった。


 気が遠のく中ベリアルの物らしき声が俺の脳内で響く。


 「私をもっと楽しませろ、貴様が魔王になればきっと楽しい毎日が待っている」


 目が覚める、隣には眠って力の抜けた俺を支えるようにして笑顔のベリアルが立っていた。


 混血の儀式は成功したらしい。ステータスを見てみると種族の欄のヒューマンの隣にはデーモンという言葉が綴られていた。


 儀式が成功したことを確認してから俺たちは外に出る、半日ほど寝ていたらしく外はすっかり暗くなっていた。


 「今日はもう休め明日からは鬼ごっこではない次なる稽古に移行する。これまで以上につらくなるだろうから覚悟しておけ」


 俺は「はい」と返事をし遂に用意された自室へと入る、ここに来てから初めてのベッドに自然と涙がこぼれる。気づけば俺は寝ていた。


 翌朝俺は早々と朝食を済ませベリアルのもとに向かう。ベリアルはいつも中庭で待っている、やはり今日もいる。


 俺に気づいたベリアルは口を開き稽古の説明を始めた。


 「さて本日からはさらなるレベルアップを目指して行く。貴様確か職業は冒険者であったな、剣技は多少あるようだが魔法はまるでだめらしい。そこでだ、貴様にはこれから魔力を高めてもらうとする。」


 魔法なんか俺とは縁遠いものだと思っていたから正直不安が大きいがやるしかない。第2の稽古「魔力強化~サーペントを打ち破れ~」が始まった。

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