線
雨上がり、西の空に夕陽が赤く燃えた。
軽井沢駅の渡橋の上では、その景色に多くの観光客が見入り、カメラを向けていた。カップル、おじさまの二人組に、家族、多くの人々が西の空を前に立ち止まり、きれいだ、きれいだ、とつぶやいている。僕はその中でただ一人、冷めた目で空を見ていた。
用事で東京の友達のところに行き、その帰り、新幹線からローカル線に乗り換えるためこの駅に降りたのだ。しかし、次の電車まで三十分という田舎特有の足止めを食らって、ただ構内をうろうろしていた。
そこでちょうど、この落陽に出会ったのだ。 地元でも見ることのできる夕陽だと思った。わざわざここで撮らなくとも、次第に黄金に輝く夕陽は、学校帰りでも見られる。
太陽は今まさに山の向こうに消え、その残光が黄昏時を作り上げた。
ああ、退屈だ。
携帯が鳴る。
きっと、職場からの電話だ。
気づかなかった振りをする。今日はもう、話をする気力なんてない。そう思ってまじめな理性を沈ませた。
都会とは違う、冷たい風が吹き抜ける渡橋の上は人溜まりになっていた。
空はそろそろ黄昏時を終え、血のように赤く、黒く染み、夜に移り変わっていく。
人溜まりも少しずつ流れていき、忙しく歩いていくサラリーマンが目立ってきた。
空に月が君臨する。
雲に押しつぶされる残光は、その赤い血を山の稜線に滲ませ、消えようとしていた。それは太陽を追い、遠くへ消えていく。次は月が明るさを増し、こうこうと輝いていく。西の空は黒に塗り替えられる直前。
黄昏時は、もう終わりだ。
青いような紫のような、それでいて黒いような、そんな空に包まれて、軽井沢駅の渡橋は都会のような風を吹かせていた。
いつの間にか引き込まれていた僕は、勝手に夕陽を自分の姿に重ねていたことに気づいて、苦笑いした。黄昏時はきっと、そんな悲劇のヒーローを気取ったようなものではないはずだ。必ず地球のどこかで、光っている。
僕の代わりに昇っていった友人に、幸福のあることを祈る。いつまでも、いつまでも、僕は光の消えた方を眺めていた。
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