第25話 嫉妬


「驚いたな。陽菜が兵士団の団長だなんて……」

「あはは、兵士団長なんてガラじゃないですけどね。良かったらカケルさんたちも兵士団に入りませんか? 人手不足なので、入団してくれるとすごく助かります!」


 陽菜は目を輝かせながら勧誘してくるが、俺にはダンジョンを攻略して元の世界に戻るという目的があるのだ。それに、ルナも兵士団に入りたいとは到底思えない。


「せっかく誘ってくれたところ悪いけど、俺たちはダンジョン攻略が第一目標なんだ。だからそっちを優先したい」

「そうですよね。突然こんなことを言われても決められないですよね」

「……陽菜の方こそ元の世界に戻りたいとは思わないのか? こんな第三層で留まっていてもいいのかよ?」


 俺がそう尋ねると、陽菜は困ったような笑みを浮かべながら、


「わ、私だってもちろん元の世界に戻りたいという気持ちはあります。……でも、今は女神さまに恩をしっかりと返したいんです」


 と言った。

 

「義理堅いんだな」

「えへへ、どうでしょう。……そろそろ私もお仕事があるので、これで失礼します。もし気が変わって兵士団に入りたいと思ったらいつでも声を掛けてくださいね。カケルさんなら大歓迎ですよ!」


 そう言って陽菜は再び渋谷109の中に駆けて行った。

後ろにいるルナが「なんでカケルくんだけ……」と恨めしそうに呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


「……陽菜ってやつ大嫌い」

「そもそもルナが好きな人っているのかよ」

「カケルくんは大好きだよ。でも陽菜が居たら陽菜とばっか話すんだもん。そんなカケルくんは好きじゃない……」

「悪かったな」


 第三層で変なことをしなければいいのだが……いや、人がいっぱいいるから流石にそんなことはしないか。


これからどうしたものかと、渋谷のスクランブル交差点でウロウロとしていると、俺たちと同じくらいの年齢の兵士団の女性がやってきた。


「はじめまして。カケルさんとルナさんですね。私は藤島ゆかりと言います。お二人のことは陽菜さんから伺っております。第三層についてご案内いたしますね」


 一体何の用かと思ったら親切にも渋谷の案内だった。

 俺たちのような田舎民にとっては有難い。

 手を回してくれた陽菜に後でお礼を言っておかなきゃな。


「まず、この第三層ではスマホでのメッセージアプリが利用出来るんです」


 兵士団の人に言われた通りにスマホを操作すると、どういうわけか電波が戻っている。

 ブラウザやゲームなどのアプリは使用できないようだが、メッセージアプリだけは何とか使用出来るようだ。

電気は使えないはずなのに、電波が飛んでいるのが不思議でならないが、これは第三層の特別な性質によるものとのことだった。詳しくは知らん。


「カケルくん、連絡先の交換しよ?」


 すかさずルナが連絡先の交換を持ちかけて来る。

 仲間である以上常に連絡を取れる状態にしておくことは悪いことではないと思ったので、言われた通り交換することにした。


「ふふ、交換が出来たようですね。では次に第三層にある施設についてご案内します」


 まずは駅前の広場にある屋台。

 ここでは食料や装備品、回復アイテムなどを揃えることが出来るという。

 日常品などもこちらで購入出来るそうで。


 ちなみに、駅前の広場は男性用の居住区としても使われているようだ。

 昼間である現在は女性も屋外の広場に来ているが、男女で寝泊まりする場所は別れているらしく、男性は屋外、女性は屋内と仕切られているとのことだった。女性の居住区に男性の立ち入ることは完全に禁止されている。


 男が屋外とは、女尊男卑感が否めないのだが……。


 また、地下や、居住区以外の建物にはモンスターが住み着いているらしく、危険なので一般の方は極力立ち入りを禁じている、とのことだった。


「……こんなところでしょうか。他に不明な点があれば渋谷109の3階に兵士団の本部があるので、いつでも気軽にお越しくださいね」

「分かったよ。案内してくれてありがとう」

「あ、ルナさんには居住区の登録等手続きがありますので、このまま私についてきてくださいね」

「えー、カケルくんと離れたくないのになあ」

「ここならメッセージアプリが使えるんだし終わったら連絡をくれよ。俺は一人で店でも見てるからさ」


 俺がそう言うと、ルナは不満そうにしながら兵士団の人についていったようだった。

 ルナが俺から離れたのは随分と久しぶりのような気がする。思えばずっとルナと一緒だったな。


「さて、俺も店を見て回りますかー」


って歩き出したところでメッセージアプリの通知音が鳴った。ルナからだった。


『カケルくん、今何しているの?』

『浮気なんかしていないよね?』

『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……』


 怒涛のメッセージ。

 そこには一休さんもビックリするほどの『好き』の文字が羅列していた。

 しかも、それが一件だけではなく、数秒ごとに送られてくる。もはやBOTである。


「なにこれ、怖ッ!?」


 ルナはこんなんでちゃんと兵士団の人の説明を聞いているのだろうか。目が見えないから音声入力だよな……。視界が共有されているんだから何をしているのかルナも分かるはずだろ。


 いい加減通知音がうるさいので、サイレントモードに設定しておく。

 そして、今度こそはお店に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る