第24話 閉ざされた道

「か、鍵が無いってどういうことなんですか!?」

「そのままの意味です。鍵が見つからず、困ったことに持っているモンスターも見つからないんです」

「それじゃあ、どうやって進めば……?」

「残念ながら進む方法はありません。第三層で攻略を諦めるしか……」


 女神は眉を八の字にして首を振る。「本当に残念ね」とでも言いたげな表情だ。


「諦めるって、これだけの人数が居ればきっと見つけ出すことが出来るはずです」

「既に探しています。それでも見つからないのです」


 女神は一転冷たく言い放つ。


「そんな……これだけの建物があるんですから探していない場所なんかもあるかもしれないじゃないですか。兵士団を動かして探しましょうよ!」

「兵士団を動かして、と簡単に言いますが兵士たちも皆命ある人間です。危険な場所に行かせることは出来る限り避けたいのです。それに物資も限られていますからね。怪我を負っては暮らしている人全員に負担がかかります」


 そんな……。

 俺たちのダンジョン攻略はここで打ち止めなのか。

 ここで終わってしまうのか……。


 そう考えていると、今まで静かだったルナが突然ソファから立ち上がる。


「……女神とやら、本当はお前が鍵を隠して持っているんじゃないのか?」


 そして、そのまま女神に向かって歩いていく。

 彼女の手にはなんとナイフが握られてある。


 や、やばい。ここでトラブルでなんて起こしたくはないのに。


 俺が止めようとしたところ……、


「貴様、止めないか!!」


どこから現れたのか、兵士団の男に取り押さえられてしまう。かなりハンサムでホストでもやっていそうな見た目だ。


「離してよ! カケルくん以外、ルナの体に触るなああっ!!」


 2人の兵士団に腕を握られたルナはじたばたと叫びながら暴れている。


「彼女たちは初めて第三層にいらしたのです。解放してあげなさい」

「はっ!!」


 女神が言うと、兵士団たちは言われた通りルナを解放する。


「……悪いけど、そろそろお仕事があるので下がってもらえるかしら。ルナさん、今度は二人きりでゆっくりとお話しましょうね」


 女神はにっこりと微笑むと、更に新たな兵士団が目の前に現れる。

そうして兵士団の人に背中を押され、俺とルナは半ば強制的に退室する形になった。


「……追い出されてしまいましたね」


 と、陽菜。


 これ以上渋谷109に居てもやることが無いので、陽菜とルナを連れて、一旦外まで出る。


「しかし、困ったな。第四層に行くための鍵が無いって」

「ルナはあの自称女神が怪しいと思う。無理矢理にでも聞き出すべきだったんだよ」

「ダメですよ、ルナさん。乱暴はいけないです。女神さまは良い人なので、鍵を隠したりなんか絶対にしません」


 陽菜が怒るが、ルナは不機嫌そうな表情をしながら黙って聞き流しているようだ。


「思ったんだけど、陽菜はどうしてそんなに女神を信頼しているんだよ? 兵士団に顔パスみたいなことしていたけど、ここではどういう立場なんだ?」

「えっと、そうですね。話せば長くなるのですが……」


 陽菜は歩きながら、今まで自分の身に起こったこと、そして、このダンジョンについて話し始めた。


「私がダンジョンで目が覚めたのは1ヶ月以上前のことです」

「――ちょ、ちょっとタンマ! 今1ヶ月以上前って言ったか?」

「はい、そうですけど……?」

「それはおかしいだろ……だって、この変なダンジョンが出来てから1週間も経っていないはずだぞ?」

「あ、それじゃあ、その辺も踏まえてお話しますね。このダンジョン内では時の流れが歪んでいるんです。そのせいで、人によって時間の流れが違うんですよ。ダンジョンが出来てから3年経ったという人がいれば、4日しか経っていないという人もいます」

「ま、マジかよ。ルナはどれくらいだと思う?」

「わたしは2週間くらいかな」

「良かった、ルナは俺とあまり変わんないんだな……」

「同じ人と過ごしていればその人と時間の流れは一緒になるみたいですが、別々に行動していると時間の流れにも差が生まれるそうです。ダンジョンの不思議ですね」


 時間の感覚まで人それぞれだとは知らなかった。

 まさに不思議のダンジョン。時計が機能していないのは、そのせいなのかもしれないな……。


「そろそろ続けてもいいですか?」

「ああ、すまない。遮ってしまって……」

「ではお話します」


 1ヶ月前、お兄ちゃんとゲームセンターで遊んでいたら、突然意識を失って、目が覚めたらダンジョンの第一層に居たんです。

 

 お兄ちゃんを探そうと第一層をさまよっていたのですが、結局見つからず、一人でダンジョンを攻略していくことにしました。

 途中で、利香さんと岳さんに出会い、一緒にダンジョンを攻略しないかと誘われたのですが、お兄ちゃんを探すことを優先したかったので、誘いを断りました。


 一人でのダンジョン攻略はまさに命がけでした。

 幸いなことに、第一層の時点で強力な武器【ビームエッジ】を入手していたので、それまでは一人でもなんとかなっていましたが、やはり限界を迎えてしまったのです。


第二層のダンジョン攻略の途中で大きな傷を負ってしまい、動くことも出来ず、その時は死を覚悟しました。


お兄ちゃんも見つけられず、私はこのまま一人で死んでいくのだと絶望していました。


だけど、そんな私のもとに女神さまが現れたのです。

 女神さまは回復アイテムや食料を惜しみなく使ってくれて、手厚い看病もあり、なんとか動けるまで回復出来たのです。


 女神さまは、私のように傷ついている人々を探していました。

 新しい人を見つけては治療し、仲間に加えてダンジョンを攻略していきました。

 そして、第二層のボスを倒し、みんなと一緒にここ、第三層に到達したのです。


 女神さまは私たちのようにダンジョン攻略で苦しむ者を見て、なんとかしたいと考えるようになり、そこからダンジョン移住計画が始まったのです。


 恩を感じていた私は、女神に尽くすことを決意しました。


 ソロでダンジョン攻略していた私は、他の方よりも戦闘能力が高いようで、女神さまに「これから作る兵士団の団長にならないか」と誘われたのです。


 何か恩返しをしたいと思っていた私はすぐに了承しました。

 ……それに、ここ第三層に留まっていればいつかお兄ちゃんに会えるかもしれない。そう思って、私は兵士団の団長に就任したんです。


「ま、待ってくれよ。まさか陽菜が……」

「えへへ、そうです。私が兵士団長なんです」


 陽菜はいたずらっぽく舌を出して、照れ臭そうに敬礼をした。

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