第22話 SHIBUYA DUNGEONS
俺が住んでいる場所は東京ではないが、テレビで何度も見たことがあるから間違えるはずも無い。
まるで震災の後のようにコンクリートやビルが日々割れているが、聳え立つビル群、スクランブル交差点、そして渋谷109……そこは間違いなく渋谷の街並みだった。
そして何としても驚いたのが、俺たち以外にも大勢の人が居るということだ。
駅前の広場には、屋外にも関わらず被災地の体育館のように生活をしている人がいる。
また、道の端にあるのはお店だろうか、祭りの露店のようなものがいくつか開かれていた。
被災後の渋谷だと言われたら信じてしまいそうになるが、いつもの渋谷とは決定的に異なる点があった。
渋谷の街並みがあるのはこの区画だけで、その先は天まで届くような真っ黒な壁に閉ざされているのだ。
それはまだ、この渋谷がダンジョン内にあるということを表していた――。
「カケルくん、早く出てくれないとルナが出られないよー」
「あ、悪い。今出るからちょっと待ってろ」
マンホールから抜け出し、ルナが出るのを手伝ってやる。
ルナもこの光景には驚いているようで「おぉ~」と感嘆の声を漏らしている。
そして、俺たちの持っているスマホからはあの通知音が鳴りだした。
画面を見ると『おめでとうございます! あなたは 第三層 に到達しました!』と書かれている。
出てきたマンホールを確認すると、既に穴は塞がれてしまっているようだった。
第二層が渋谷に繋がっていることに驚きだが、なによりも俺たち以外にも人が居ることに驚いた。しかも、こんなに大勢の……。みんな第二層を攻略してここへ来たのだろうか?
「……カケルさん、ですよね?」
2人でビルをぼーっと眺めていると、突然後ろから声を掛けられる。
振り向くと、そこにはボブヘアの可愛らしい女の子が俺たちを見つめていた。中学生くらいだろうか。
目がぱっちりとしていて可愛らしいが、どこか芯の強さを感じられる瞳……。
俺はそんな彼女の姿に見覚えがあった。
「もしかして、陽菜か?」
「はい! 私のこと、憶えていてくれたんですか!? 嬉しいです!」
彼女の名前は支倉陽菜。
支倉という名字の通り、隆史の妹だ。
隆史とは顔が全然似ていなくて可愛らしい……こういえば隆史には失礼かもしれないがすべてにおいて隆史と正反対という印象だ。明るい性格で、きっと中学ではモテるのだろう。
以前、学校祭のときにちょっとだけ話した程度だったのだが、彼女は俺のことをしっかりと覚えていたようだった。
「……カケルくん、誰? そいつ……」
ルナが声のトーンを落としながら俺の腕を引っ張ってくる。まるで敵を見るような顔だ。
「隆史の妹だよ。学校祭のときに会ったんだ」
「ふーん」
ルナは自分で聞いておいて、まるでどうでもいいような返事をする。
……なんだかこのやり取り、デジャブを感じられるな。
「んで、こっちは俺の仲間のルナ。第一層のときに出会って、一緒にダンジョンを攻略することになったんだ」
「わあ、お二人は仲間なんですね。ルナさん、はじめまして!」
愛想よく陽菜が挨拶をするが、ルナは返事をしない。
ヤキモチでも妬いているのだろうか。
「そういえば、カケルさん。お兄ちゃんとは会いませんでしたか?」
一番してほしくなかった質問をされ、思わずドキリとしてしまう。
……隆史の身に起こったことはあまりに悲惨すぎた。
俺自身が忘れてしまいたいくらいだ。クラスメイトの俺でさえこれなのだから、実の妹である陽菜に話せば大きなショックを与えてしまうだろう……。
なんだかんだ言ってお兄ちゃん想いなんだと隆史から聞いたことがある。
いっそ、隆史とは会わなかったと言って、やり過ごそうとしたのだが……。
「隆史くんなら第一層で会ったよ」
勝手にルナが話し始めやがった。
ま、マズイ。このままだと余計なことまで喋ってしまう……そう思った俺はすぐにルナの口を押さえて、ストップをかける。
陽菜ちゃんは「???」という表情をしてこちらを見つめている。
いかんな、急いで会話を繋げなければ。
「……ああ、隆史とは第一層で会ったんだけど、途中で別行動をすることになったんだ。だから今どこに居るのか知らないなー、あはは……」
なんとか誤魔化すことが出来たと思う。
ルナも俺の考えを汲み取ってくれたようで、それ以上は何も言わなかった。
「もー、お兄ちゃんったら別行動をするなんてなに考えているんだろう? 人見知りにも程があるよ……二人にはご迷惑をおかけしました」
礼儀正しく頭をペコリと下げる陽菜。
「い、いや、別に大したことじゃないからいいんだ。な?」
「うん、別に大したことなんてしてないよー」
そう言って俺とルナで不自然な笑みを浮かべる。
流石に怪しく見えたのだろうか、一瞬だけ陽菜が考えるような素振りをする。
そろそろ、別の話題に切り替えなければヤバイかもしれない……。
「いやー、まさかダンジョンで再会出来るとは思わなかったなあ。もしかして一人で第二層を攻略してここまで来たのか?」
「あはは、違いますよ。私がここまで来れたのは……ううん、生きているのは全てあの方のお陰なんです!」
「あの方って?」
「女神さまです!」
明るい表情で俺たちに話す陽菜。
女神というあまりに非現実的な言葉に俺は耳を疑った。
ダンジョンの中でも異質なこの第三層……。
人が生活しているようだが、ここは一体どうなっているのだろうか
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