第21話 第三層へ
地面に倒れているルナもとに近づいていく。
呼吸はしているようだが、頭の打った場所が悪かったのかもしれない。気を失っている。
そして、ワンピースのポケットからは彼女のものと思われるスマホが飛び出していた。
そういえば、人間のステータスを確認するときは自分のスマホじゃないと確認出来ないんだっけ。
ルナの残りHPがいくつなのかも気になるが、彼女は音声でスマホの内容を確認していると言っていた。ハッキリ言って怪しさ満載だ。
なんだか悪いことをしているようで気が引けるが、背に腹はかえられぬ、俺はルナのスマホに手を伸ばした。
「ロックはかかっていないのか……うわ」
俺はルナのスマホのホーム画面を見て思わず声をあげてしまう。
いつの間に撮ったのか知らないけど、ホーム画面の壁紙が俺の顔写真なのだ。
内心ドン引きしながらも例の白いアイコンのアプリを探し、起動した。小さい音量だが、画面上に表示されている文字を読み上げてくれているようだ。
俺はルナのステータス欄を見て、二度目の衝撃を受けることになる。
「な、なんだこれは……」
________________
名前:ルナ 女
HP 26/100
攻撃力 538
防御力 263
素早さ 444
運 666
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ルナのステータスの値が有り得ないほどに高い……俺の百倍以上もある数値だ。
ルナは俺のステータスを見て平均以下と言っていたが、それでもルナのステータスは高すぎる。まさにチート級の数値だ……。
彼女は一体、何者なんだ――?
「……ん、カケルくん?」
まずい、ルナが目を覚ました。
気を失っていたとはいえ、俺たちは視界は共有している。
俺が見ていたのを見られたか……?
視界を逸らしながら急いでスマホをルナの近くの地面に置く。
さあ、どうする。あのステータスのことをルナに聞くか?
……いや、もしかすると聞かない方がいいのかもしれない。これだけのステータスの高さがあるというのに、ルナはそれを俺に話さなかった。何か理由があるはずだ。
もしかすると、ルナはこのステータスのことを隠している……?
「め、目を覚ましたか」
「カケルが助けてくれたの?」
「あ、ああ……」
本来であれば、利香さんのことを問い詰めるつもりだったが、少し状況が変わった。
……それに、真偽が分からない今、問い詰めたところでどうすることも出来ない。彼女の言う通り、目が見えない中利香さんをどうこうするのは難しいだろし、本当に偶然かもしれない。
今優先すべきことはダンジョン攻略だ。証拠もないのに勝手に決めつけるのはよくない。
「……助けてくれたってことは、ルナを信じてくれたってこと?」
「いいや、俺はまだルナを疑っている。……けど、ダンジョンを攻略していくにはルナの力も必要になってくる。だから生かしておいているだけだ」
「えへへ、カケルくんが馬鹿じゃなくて良かったー。そうやってルナをいっぱい利用してね、カケルくん」
自分が利用されているにも関わらず、幸せそうな表情で微笑むルナ。
マンモスを燃やした煙で、俺たちの現在位置を知らせることが出来たはずなのだが、利香さんはこちらに戻ってくる様子はない。
戻ってくる意思がないのか、それか既に動けない状態になってしまったのか……。
いずれにしても回復アイテムを大量に消費してしまった今、この広いダンジョン内を探しまわるのは困難を極めるだろう。
第三層へと続く扉を見つけるまで、という条件付きになるが、出来る限り捜索は続けたいと思う。
ルナもそれには了承してくれたので、早速出発することにした。
「第二層に来ただけで苦戦してしまうとは……第三層になったら、どれだけ敵が強くなるんだ……」
「大丈夫だよ、カケルくん。ルナがいる限りカケルくんは絶対に死なせたりしないから」
「そんなことを言っている割に第二層のボスには思いっきり苦戦していたじゃねえか」
「あれはまだムーンアックスの扱いに慣れていなかっただけ。コツが掴めたから今度は苦戦しないもん」
「本当かよ」
なんて会話をしている内に、第一層で見たものと同じ扉を見つけてしまう。
扉は洞穴の入り口にあり、鍵を使えば洞穴の中に入れるようだ。
「カケルくん、何ぼーっとしているの? 入ろうよ」
ここに来るまでに結局利香さんも、利香さんの形跡らしきものも何一つ見つからなかった。
仮にルナが殺害したとすれば、何らかの証拠が残されていると睨んでいたのだが……。
「そうだな。ここまで来たら進むしかない」
最初から決めていた通り、俺たちは先に進むことにした。
鍵穴に鍵を差し込むと、扉は大きな音を立てながら開いた。今度はシャッター式ではないらしい。んで、鍵は一層のときと同じように消えてしまう、と。
洞穴の中は狭くて薄暗く、入ってすぐ梯子を見つけることが出来た。
これを登れば第三層に行けるのだろうか……。
梯子に手を触れた瞬間、扉が音を立てて閉まってしまった。この時点で気付いたのだけど、ダンジョンの扉は梯子に触ると自動的に閉まる仕掛けになっているようだ。
このことにもっと早くから気づいていれば、隆史を救えたかもしれないのに。
ルナは梯子に登るためにムーンアックスを収納する。
「第三層はどんな場所なんだろう?」
「さあな、見当もつかない」
第二層から見た限りでは、上に何かがあったようには見えなかった。
洞窟、ジャングルと来て次は一体どんな場所が舞台になっているだろうか。それとも、第二層で終わりなのか――梯子の先は暗黒に包まれていて分からない。
俺が先頭になって梯子を登る。
期待と不安の入り混じった奇妙な感覚だ。
「まだ着かないね」
「ああ、一層のときよりも長いみたいだ。どこに繋がっているんだか……」
10分ほど登り続けていると、突然頭に何か冷たくて硬い物が当たった。
「ルナ、ストップだ。上に何かある」
「何かってなに?」
「なんだろうなこれ……上に押せば開く蓋みたいなやつだ」
片手で押しても少ししか開かない。
梯子に掴まりながらやるのはなかなか難しい……下手したらバランスを崩して落下してしまいそうだ。
「ルナも手伝うよ」
そう言ってルナは俺と同じ場所まで登ってくる。一つの段に2人もいるからとても狭い。
蓋を一緒に押してくれるのかと思ったが、ルナは俺と身体が密着していることで喜んでいるようだ。
「カケルくんとめっちゃ近い……えへへ」
「おいおい、手伝ってくれるんじゃないのかよ」
「しばらくこのままで居たらダメ?」
「ダメだ」
俺が即答すると、ルナは残念そうな顔をしながらも渋々蓋を押すのを手伝ってくれた。
「いくよ、せ~~のっ!」
息を合わせて重い蓋を持ち上げる。
そのまま蓋を横にずらすと、第二層とは異なる灰色の空が見えた。どうやら次の階層に到達することが出来たらしい。
穴から顔を出すと、そこに広がっていたのは……。
「渋谷……?」
俺たちの出てきた場所は渋谷の道路の脇にあるマンホールだった。
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