第19話 疑惑

 今回の見張りは前半と後半を分けて計2回行った。

 利香さんは本当に眠ったら目覚めないらしく、後は全てルナが見張りをすることになった。

 前半は俺だったので、見張りを終えた後は何も気にすることも無く、ゆっくりと休んで爽やかな朝を迎えるつもりだった。利香さんとルナは仲直りして、3人で楽しく出発するんだと、そう思っていた。


 だが――。


「あれ、利香さんは?」


 目を覚ますと、利香さんの姿が消えていた。

 まるで最初から何も存在していなかったかのように、利香さんの寝床ごと消えていたのだ。


 そして、何より気になるのは――。


「……利香さん? ルナは何も知らないよ?」


 ムーンアックスを持っているルナだ。

 利香さんの持っていたはずのムーンアックスを何故かルナが所持していたのだ。

 それに、見張りをしていたルナが利香さんの行方を知らないはずがない。


「……なあ、ルナ。それって利香さんの持っていたムーンアックスだよな……?」

「あ、これムーンアックスなんだ。目が見えないから知らなかったよ」


 俺はルナを睨む。


「……白々しい嘘をつくな。どこで手に入れたんだ!?」

「ルナが見張りをしていたら目の前にたまたま宝箱が現れて、宝箱を開けたらたまたまこれが出てきたんだよ!」


 ……そんなはずがない。そんなはずがあるわけがない。

 だって……。


――――――――――――――――

【レア度】SSS

【古代遺物】ムーンアックス

【効果】攻撃力+468

――――――――――――――――


 スマホでルナの持っているムーンアックスを鑑定すると、利香さんの持っていた物と同じ攻撃力をしているのだ。


 レア度SSSのムーンアックスが運よく宝箱から出てきて、利香さんの持っていた攻撃力とたまたま同じものが手に入るなんて、一体どんな確率だ……普通に考えてあり得ない。


「……ルナ、本当に利香さんを知らないのか?」

「だから~、知らないって言っているでしょう? そんなことよりもさ、早く第二層を攻略しちゃおうよ!」

「俺は利香さんの居場所について聞いているんだ!!」

「……カケルくん、居なくなった人のことなんて放っておこうよ。きっと大切な人が居なくなったことに耐えられずに自殺したんだよ」


 ルナは「何も知らないですよ」といった態度で、ムーンアックスを肩に乗せながらヘラヘラと笑いながら話してくる。


「……違う。利香さんは昨日、ルナに謝って気分良く出発したいって言っていたんだ。自殺なんかするはずがない」

「そんなの分かんないじゃん。人の心なんて誰にも読めないんだから」


 まるで他人事のように話すルナ。

 それでも俺は利香さんが自殺したとは思えなかった。そして、姿を消す理由なんて何もないはずだ……そうなれば、残された可能性は一つ。


「なあ、ルナ……出来るならこんなことを考えたくは無いんだが、正直に言うとお前を疑っている。そのムーンアックスは利香さんの物なんだろう?」

「違う。これはルナが手に入れたものだよ」

「武器には個体差があるはず。なのに利香さんの持っていた物と攻撃力まで同じだ。偶然にしては出来過ぎじゃないか?」

「なに? ルナの言うことが信じられないっていうの?」

「ああ、信じられないな……」


 俺は隠し持っていたブロードソードをルナの前に突き出す。

 だが、ルナは少しも怯えることなく、無表情でこちらを見つめている。

 俺は声を絞り出すようにしてルナに問いかけた。


「ルナ、本当はお前がやったんじゃないのか――?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る