第17話 サヴァイバル

 フォレストワームを倒したあとも、俺たちは食料探しを続けた。

 可燃性であるフォレストワームの体液はこの先何かに使えそうだったので、簡易的な袋を作り、そこにかすかに残っていた体液を入れて何個か収納した。


「そういや、宝箱が全然見つからないな。第一層に居た頃はもっと見つかったような気がするんだけど」

「第二層になったから出現率が減少したのかもしれないね。その代わりにこれ……」


 ルナのスマホに映し出されていたのは第二層に生えている植物を鑑定したものだった。

 説明には【食用】と書かれている。


「なるほど、ダンジョンに生えている物を食べるってことか」

「ピンポン、これだけ自然が豊かならわざわざ宝箱を探さなくても食べ物はあるみたいだね」

「ますますサバイバル要素が増えてきたな」


 ただのオブジェクトのようにしか思っていなかった物も有効活用していかなければいけないようだ。


 スマホのカメラを使い、食べられるものを判別しては採取していく。

 それは草だったり、木の実だったりと色々だ。途中、川を発見したので魚を捕まえたりもした。


「ふー、結構集まったね」

「そうだな。……ん? おい見ろ、あそこに宝箱があるぞ!」


 川の向こう側に宝箱があるのを発見した。自分で見つけることが出来たのはこれが初めだ。なんだか少しだけ嬉しい。


 中身を空けると、そこには錆びた剣が入っていた。


――――――――――――――

【レア度】D

【武器】ブロードソード

【効果】攻撃力+11

――――――――――――――


 攻撃力+11……棍棒よりはマシなのかもしれないが、微妙すぎる……。


「あちゃー、外れを引いちゃったね」

「ま、まあ、新しい武器が手に入ったからそれだけで満足さ……そろそろ戻らねえとな」


 気が付けば空は暗くなっていた。一人にしている利香さんが心配なので、急いでキャンプ地に戻ることにする。


「ご苦労さん」


 利香さんの目は赤くなっていたが、ニッコリと笑顔を見せてくれる。

 そして、いつの間に集めてきたのか、キャンプ地の側には薪が置かれていた。


 炎の杖で薪に火を付け、獲ってきた木の実や魚を炙る。

 3人で火を囲み、食べ物を時々摘まみながら会話が始まった。


「……へー、2人ともすごいじゃん。あのフォレストワームを倒すなんて」

「一時はどうなるかと思ったけど、ルナがあいつの身体を引きちぎったんですよ。それで、出てきた体液に火を付けたら一気に燃え広がってさ」


 俺たちの小さな冒険談を話すと、利香さんは自分のことのように楽しそうな表情をして笑っていた。


「ルナちゃん強いんだねー」

「えへへ、カケルくんを守る為ですから」

「いいねえ、青春だねぇ。……あー、アタシたちにもこんな時代があったなあ」


 利香さんは夜空を見上げながらうっとりと呟く。

 アタシたち、とは岳さんとのことを言っているのだろうか。


「あはは、ごめんね。なんだかしんみりとした空気になっちゃって。でも落ち込むのは今日でおしまい! これからはカケルとルナちゃんを守って行かなきゃいけないからね!」


 利香さんはその場で立ち上がると、ガッツポーズをとってニッと笑った。

 いつも通りの利香さんに戻ったようで、よかった。


「そういえば、利香さんと岳さんって、どういう関係だったんですか?」


 ルナがふと思い出したかのように訊ねる。

 そういえば2人の関係を聞いていなかった。まあ、大体は予想が付くのだけど。


「そういや話していなかったね。アタシと岳は幼馴染だよ。んで、アタシの初恋の相手でもあるの。……なんだい、アタシでも恋するのかとか思っているんだろう?」

「い、いや、そんなことは……」


 ……正直に言うと、ちょっとだけ思っていました。


「アハハ! 別にいいのよ! 初恋なんてものは叶うもんじゃなくてね。特別な関係になることもなく、成人を迎えて離ればなれ、気が付けばお互いに違う相手と結婚してさ……」


 火の影のせいか、どこか悲しげな表情で話す利香さん。

 薪の燃えるパチパチという音だけが響いている。

 利香さんは少しだけ話しづらそうな表情をした後に続けた。


「それでね。一か月前くらいかなぁ、偶然にもアタシの住んでいた町で岳と再会してさ、それからよく会うようになったんだよ。話を聞いていたら向こうもアタシのことを好きだったみたいでね。それで、その……アタシの旦那には悪いと思っていたんだけど…………」

「え、それって……」

「あはは! そうさ、浮気だよ。あのまま会えなかったならただの初恋の幼馴染だったんだろうけど、今じゃ浮気相手さ。どうだい、汚い大人だろう? こんなんだから罰が当たったのかもねえ……あはは」


 利香さんは吹っ切れたように笑った後、やがて力尽きたかのように大人しくなってしまった。俺はこんな時になんと言えばいいのか分からなかった。

 受け答えに困っていると、


「ほんと、汚ない大人だ」


 ルナはゴミに向かって発するような声色で吐き捨てた。

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