第15話 罠
「おいおい、なんだよこれは!! 武器やアイテムが置かれているじゃねえか!! ひゃっほー!!」
岳さんが嬉しそうにブルーシートに近づいていく。
まるで宝の山を見つけたかのようなテンションだ。
「……待ってください。何かの罠かもしれないです」
すかさず俺が釘を刺しておく。
ダンジョン内で油断は禁物だ。あのスライムのように予想外のことが起きる可能性がある……。
「ふむ、確かにそうかもしンねえな。ちょっと近くに行って確かめてくらぁ。お前たちはここで待ってろ」
岳さんは大剣を構え、慎重にブルーシートの中心に居る人形に近づいて行く。
人形の目と口は大きく、髪は茶色でパーマがかっている。愛嬌のある見た目をしているが、どこか禍々しさを感じられた。
『ラッシャイ!! ラッシャイ!!』
突然、人形がロボットのような口調で喋り始めた。
これには一瞬だけ驚く岳さんだったが、声がするだけで特に脅威はないと判断したらしく、更に近づいた。
あの人形の正体が気になった俺はスマホのカメラで鑑定を行う。
だが、何も情報は出てこない。
モンスターであれば名前などが表示されるはずなのだが、この人形はモンスターではないのだろうか?
「おい! こいつマジで人形みたいだぜ! 材質は玩具とかで使われているプラスチックっぽいやつだ! しかもコイツ、タケノコみたいに地面から生えていやがる。持ち上がらねえ!! ガハハハハ!!」
岳さんは人形の首を掴んで、持ち上げようとしているようだが少しも動く気配はない。
とにかく、敵ではなさそうだ。少しだけ安心。
やがて岳さんは調子に乗り始め、持っている大剣で人形を叩き始めた。
硬いのかガキーン、ガキーンという音が鳴り響いている。
「ガハハハハ! こいつ全然切れねえ! 切れねえぞ、おい!!」
「……はぁ、本当に馬鹿なんだから」
利香さんはやれやれという顔をしながら苦笑を浮かべる。
人形は大剣で切られ続けている今も『ラッシャイ、ラッシャイ』と繰り返していた。
「遊んでないで、いい加減戻っておいで」
利香さんが声を掛けると、岳さんはヘラヘラとした様子でこちらに戻ってくる。
……が、ブルーシートから出ようとしたところで足を止め、上に乗ってあるアイテムを見つめながら、
「せっかくだし、ここに置いてある物を全部持って行っちまおうぜ!!」
と嬉しそうに叫んだ。
アイテムはポーション、ランス、食料など、ダンジョン攻略の役に立ちそうな物ばかりだった。
岳さんは置いてあるアイテムを全部腕に抱えて、こちらに戻ってこようとブルーシートから出る。
その時だ。人形の頭がグルリと動き、岳さんの方を捉えた。
気のせいかもしれないが、人形は岳さんを睨んでいるようにも見えた。
「あ? なんだァ?」
振り返り、間抜けな声をあげる岳さん。……なんだか嫌な予感がする。
『ビー! ガガーーッ!! ドロボー、ドロボー!! 泥棒ハ死刑!! 殲滅シマスッッ!!!』
警報音と共に、人形の頭がグルグルと回り始めた。目が赤く光っている。
「だ、誰が泥棒だ! バカヤロウ!!」
やがて、岳さんの方向でピタリと止まると、人形の口がパカリと大きく開いた。
シュウゥゥゥゥ……という音を立てながら、人形の口の前に青白い光が集まってきている。
「なに!? なんなのあれ!?」
珍しく利香さんが声を荒げる。不穏な空気が漂い始めた。
岳さんも身の危険を感じたのか、大剣を構えて腰を落とした。その眼光は鋭い。
ビュオオオオオオオオオオ!!!
次の瞬間、目の前が青白い光で染まった。
眩しくて何も見えない。
「――なんだ? 何が起こったんだ!?」
次第に目が慣れてくる。人形の口からはアニメで見るような太いレーザー光線が岳さんに目掛けて発射されていた。
既に岳さんの姿は見えない。レーザー光線は地面を抉りながら後ろにある樹々をどこまでも焼き尽くしていた。オーバーキルもいいところだった。
レーザーは少しづつ細くなっていき、糸ほどの太さになって、やがて完全に消滅する。
そして、人形は何事も無かったかのように元の向きに戻ると、再び『イラッシャイ、イラッシャイ』と喋り始めた。その光景に狂気を感じずにはいられなかった。
「岳……」
沈黙を破ったのは利香さんだった。
岳さんの居た場所には何も残っておらず、あのレーザー光線は塵一つ残さず、何もかも消し飛ばしていた。
「そんな……どうして……」
膝から崩れ落ちる利香さん。声を震わせ、目には涙が浮かんでいた。
ふざけあっていたが、とても大切な人だったのだろう。
「くそ……」
俺はまたしても仲間を失ってしまった……救えなかった……。
「カケルくん……」
気持ちの沈んでいる俺をなだめるように、ルナが手を握ってきた。
「自分を責めちゃ駄目。カケルくんは何も悪くない」
「罠かもしれないって分かっていたんだ。それなのに俺は……」
悔しくて涙が出てくる。
止めようと思えば、止められたはずだった。
なのに俺は心の中では何も起こらないんじゃないかと楽観視し過ぎていたんだ。
「これはきっと運命だったんだよ。あの人はここで死ぬって予め決められていたの。だからね、カケルくんが何をしようと無駄なんだよ」
慰めてくれると思っていたルナの口から出てきたのは驚きの言葉だった。
「何を……言っているんだ……?」
ルナはまるで自分がさも正しいことを言っているかのように語りかけてくる。
「仲間なんて居るから悲しいことが起こるの。最初から仲間なんて居なければこんな目に遭うこともない。そう思わない?」
人が死んだというのに、楽しそうに話すルナ。
ルナは最初からずっと俺と2人きりになることしか考えていない。他の奴なんてどうでもいいと、本気でそう考えているのだ。
むしろ、ルナは俺が仲間を作る気を起こさないよう、こうやって仲間が死んだことを利用しようとしているようにも見えた。
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