第14話 ナイフダンス
「利香さんたちも一層から来たんですよね?」
「そうだよ。スライムを倒して、鍵を入手してから梯子を登って来たんだ。大体10日前くらいかなあ」
スライム……その名前を聞くと、忌々しい記憶が呼び起こされる。
2人は何ともなかったのだろうか。そして、10日もダンジョンをさまよっているということは第一層よりも広いのだろう。
「おばさまたちはスライムに苦戦しなかったんですか?」
と、ルナ。
「苦戦? するわけがないじゃないか。むしろどうやったら苦戦するのか聞きたいくらいだね! ハハハ!」
「あんなの利香のヒップドロップで一撃だったぜ! ガハハハハ!!」
「やかましいわ!!」
岳さんの頭をグーで殴りつける利香さん。
どうやらこの二人はスライムに何かされた、ということは無いようだった。
隆史は運悪く、たまたま顔に飛びつかれただけなのか。
もし、隆史もこの人達のように運が良ければ、ここには隆史もいたかもしれないのに……くそう。
「二人とも、俺たちが出てきた場所から来たわけじゃないんですか?」
「それアタシも気になってた。もしかしたら第二層への入り口は何個かあるのかもしれないねえ」
「ということは他にも第二層に来た人や、もしかしたら既に第三層まで到達している人もいるかもしれないんですね」
「そうだねえ……実はアタシたちも一回だけ他の人に会ったことがあるのよ」
「え? 他にも人が……?」
「うん。中学生くらいだったかなあ。女の子でね、アタシたちの仲間に加わらないかって誘ったんだけど、人を探してるからって。あの子一人でも上手くやっているのかしら」
それは心配だなあ、と言おうとしたところでルナに睨まれる。
「分かっているよ。さっきの約束のことだろう……」
俺がそう言うと、ルナはニッコリと微笑んだ。
「おい、上だ」
突然、岳さんが低い声で唸った。声のトーンからおふざけではなさそうである。
言われた通り上を向くと、さっきの魔法を使ってくるモンスター『フォクシー』が俺たちを囲っていた。
「ありゃりゃ、囲まれたね……」
「こンだけ数が居ると手厳しいな……」
最強の武器を持っていても、多数の相手には不利なようで珍しく2人は弱気な声を上げている。
「ここは俺にやらせてください。俺、炎の杖を持っているんです」
俺が杖を構えたところでルナが腕を伸ばして制止する。
「待って、カケルくん。ここはルナに任せてよ」
「任せてって、お前……あれだけの数どうするつもりなんだ?」
「カケルくんはここから時計周りにぐるーって視線を動かすの、いい?」
そう言った後、突然ルナが助走をつけて木に向かって走りだした。
一体何をするつもりなんだ……そう思っていると、ルナはまるで猫のような俊敏さで木によじ登り、風のような速さで枝から枝へと飛び移る。そして、手に持ったナイフでフォクシーを切り刻んでいった。まるでアクションスターか忍者のようだ。
「すげえ……」
思わず感嘆の声が漏れてしまう。
ルナはそのまま木から飛び降りて、俺の近くに着地する。
「どう? これなら仲間なんて必要ないよね?」
獣の血を浴びたルナがこちらを振り向きながらニコッと微笑む。
……ルナにこんな身体能力があったなんて驚きだ。
利香さんと岳さんもこれには驚いているようで、目を丸くさせている。
「……ハハ、驚いたね。ルナちゃん凄いじゃないか。目が見えないんだよね?」
「えへへ、運動は得意なんです」
目が見えないということだけをスルーして、ルナは愛想の良い笑顔を浮かべる。そのままルナはフォクシーの落とした杖を拾い集めに行った。
いや、運動が得意なんていうレベルじゃない……人間離れしていると言っても過言ではないほどだ。
「はい、カケルくん。プレゼント」
束になった炎の杖を渡される。
これだけあれば魔法の使用回数を気にすることもないだろうが、1人で使うには多すぎるような気がする。
「ルナ、また囲まれた時のことも考えて、利香さんと岳さんに渡してもいいか?」
勝手に渡したりしたらまたルナが不機嫌になりそうだったので、事前に確認を取る。
「……カケルくんに渡したものだからカケルくんの好きにしていいよ」
了承も得られたので2人に炎の杖を渡して、ダンジョンの攻略を再開させる。
思えば、ルナはナイフを手に入れたし、炎の杖を除いてメインウェポンを持っていないのは俺だけだ。
そろそろ俺にも新しい武器が欲しい。都合よくいいアイテムが落ちていないだろうか。
「宝箱って出現する場所に法則とかあるのかなあ」
「どうなんだろうね。カケルくん、新しい武器が欲しいの?」
俺の考えを見透かされたかのようにルナが尋ねる。
「ああ。棍棒しか持っていないんじゃ俺だけお荷物だろ?」
「そんなことないよ。ルナがカケルくんの武器になって戦うから、そんな心配しなくてもいいのに」
なんてルナと会話をしていると、
「ガハハハ!! 随分と彼氏想いなんだな!!」
「彼氏想いっつーか、重いくらいだよ。ところで岳さん、宝箱について何か情報はないですか?」
「そうだなあ、宝箱の出現場所について言うなら完全にランダムだ。今まで無かった場所に宝箱が現れたり、宝箱があったはずなのに次の日には消えてしまっていたり、と座敷童みたいに気まぐれな存在で見つけるのは大変なんだぞぉ」
ということは、狙って宝箱を見つけるのは不可能に近いようだ。
あったらラッキー程度に思っておけばいいのかもしれない。
しばらく歩き続けていると、ちょっとした広場のような場所に辿り着いた。
そこには俺たちの2倍ほどの大きさの、巨大な人形があった。
その人形は、スーパーの店員のような格好をしており、頭でっかちな食いだおれ人形のようだった。肌はテカテカで、いかにも人工的な雰囲気を醸し出している。
下半身は埋もれているのか、地面からは上半身しか見えていない。全体的なシルエットはこけしに近いのかもしれない。
ハッキリ言って、場違いも甚だしい見た目だ。
そして、その周りにはブルーシートが敷かれていて、ブルーシートの上には武器やアイテムなどが置かれてある。
「……なにこれ?」
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