第12話 セカンドレイヤー
梯子を登るとそこは青い空、草木の生い茂るジャングルだった。
一応は外に出られたようだが、何やら少し様子がおかしい。植物が今までに見たことの無いような形をしているのだ。それはまるで別の惑星に生えていると言っても過言ではないくらい歪な形をしている。そして、空を見上げると黒い壁がどこまでも伸びている。俺たちを閉じ込める柵なのだろうか。
梯子から離れると、登ってきた場所は再び光に包まれて穴が塞がってしまった。
後戻りは出来ないということらしい。
ポロロン♪
その時だ。俺とルナのスマホの通知音が同時に鳴った。
通知を知らせる画面には
『おめでとうございます! あなたは 第二層 に到達しました!』
と表示されている。
やはり、まだダンジョンの中のようだ。
「ここが第二層か……」
第一層に置いてきた隆史のことがどうしても気になってしまう……。
ダメだ。振り返るな俺、前に進むって決めたんじゃないか――。
「カケルくん、危ない!」
突然、そんな声と共にルナが背後から飛びかかってきた。
地に手を付きながら後ろを向くと、今まで俺の居た場所が燃えている。
「まさか……敵か!?」
「そうみたい。木の上にいるよ」
太い木の枝の上に、ローブを着たキツネのようなモンスターが杖を構えて俺たちを見下ろしていた。どうやら炎はこのモンスターの仕業らしい。
魔法を使ってくる敵か……遠距離タイプは厄介だな。
「棍棒しか持っていない俺たちじゃ攻撃は届かない。こうなったら逃げ……」
そう言いかけた時、ブンブンブン……と空気を切り裂くような音がキツネのモンスターの背後から聞こえてきた。
その音は段々とこっちに近づいてきている。
金色に輝く何かを見た次の瞬間、キツネのモンスターはローブごと上下真っ二つに裂けた。赤い体液が辺りに飛び散る。
飛んできた謎の飛行物体はそのまま大木を倒しながら進んでいき、やがて大きな音を立ててどこかへと落下したようだ。
「な、なんだったんだ……あれ」
呆然としていると、ルナがモンスターの落下した場所に向かい、敵の持っていた杖を拾ってきたようだった。
「カケルくん、戦利品だよ」
「これは……」
―――――――――――――――――――
【レア度】C
【消費アイテム】炎の杖
【効果】杖を振ると火の玉が飛び出す。最大5回使える。あと【4回】。
―――――――――――――――――――
ルナから杖を受け取り、スマホで効果を調べる。
なるほど、この世界では『杖』というアイテムを使うことで魔法が使用出来るようだ。
しかも、MP制ではなく回数制。消費アイテムということは使い捨てだな。
「よし。遠距離攻撃出来る武器が手に入ったのはデカいぞ」
「うんうん。火はサバイバルにも使えるからかなり有用なアイテムだよ。それにしても、さっきのアレはなんだったんだろう?」
なんて話をルナとしていると、
「アンタたち、無事かい?」
謎の飛行物体の飛んできた方角から、姉御という言葉がピッタリと当てはまるような筋肉質の女性が姿を現した。鍛えているからか身体は引き締まり、モデルのような体型をしている。どうやら助けてくれたのはこの人らしい。
「なんとか間に合ったようだな」
遅れて、分厚い大剣を背負った褐色肌の厳つい顔をした大男も奥から出てきた。この2人は仲間か何かなのだろうか。
「ええ、なんとか。助けてくれてありがとうございました」
そう言って頭を下げると、突然ルナが俺の目の前に立ちはだかり、助けてくれた女性に向かって棍棒を突き付けた。
「お前たちは何者だ」
低い声で相手を威嚇するようにルナは訊ねる。
「おい、ルナ! 助けてくれた相手に失礼だろ!」
「カケルくんは黙ってて。ここは予想外のことが起こる場所だって知っているでしょう? こいつらは敵かもしれない」
想定外のことが起こるのは確かだが……この人達が敵だとは到底思えない。
大男は仲間の女性が危険な目に遭っているというのに微動だにしない。それだけ余裕があるということなのか……。
「プッ……アッハッハ!!」
棍棒を突きつけられていた女性が突然弾けたように笑い始めた。つられるようにして大男も笑い始める。
「アタシたちが敵だって? くくく……アンタ聞いた?」
「ま、お前のそんな見た目じゃ敵だと思われても仕方がねンじゃねえか?」
「ちょっと、それはどういう意味だい?」
「いででで……!! 耳たぶを引っ張るンじゃねえ!」
この2人のやり取りで緊迫した空気が一瞬でなくなってしまった。
ルナもこの展開は予想していなかったのか、きょとんとした顔をしている。
「自己紹介が遅れたね。アタシの名前は近藤利香。んで、こっちのゴリラみたいなやつは浅野岳。安心しな、こいつ顔は怖いけど悪いやつじゃないからさ」
親指で岳という大男を指しながらニッと笑う。
「俺はカケルで、こっちはルナです」
「よろしく、アンタたちも迷い人かい?」
「迷い人?」
「ああ、アタシたちが勝手にそう呼んでいるだけなんだけど、目が覚めたらこの変なダンジョンに迷い込んでしまっていた人たちのことさ。もちろん、アタシたちも同じ迷い人」
ということは、他にもダンジョンに迷い込んだ人と会っているということなのだろうか。
「ところで、2人とも名字が違うようですけど夫婦ではないんですか?」
俺がそう質問すると、さっきまでの馴れ馴れしい態度から一変、急に顔を赤くして答えづらそうにモジモジとし始めた。
「……んん、アタシたちは夫婦ではないんだよ。な?」
「あ、ああ……夫婦では、な?」
2人ともこんな見た目なのに中学生のカップルみたいな動作をするのがとてもシュールだった。なにかワケ有りなのかな。そう思っていると、ルナが突然割り込んできた。
「ちなみにわたしとカケルくんははカップルで、お互いに将来を約束した仲なんです!」
「えっ? 俺初めて聞いたんだけど!?」
「ハハハ! 仲が良くていいじゃないか。カケルって言ったか? 彼女を大事にしてやりなよ?」
「カケルくん、お願いね?」
「え、いや。本当に彼女じゃないんですよ。ルナも何を言っているんだよ!」
俺が必死に否定するのだけど、全然伝わっていないようだった。
ルナもアピール出来たことに満足しているのか、隆史といるよりもご機嫌な様子である。
「そういえば、金色の飛行物体のようなものが飛んできたんだけど、あれってなんだったんですか?」
「いっけない。すっかり忘れてた」
利香さんは自分の頭をぴしゃりと叩く。
「アンタたちもついておいで。いいモン見せてやるからさ」
利香さんと岳さんが先頭になって倒れた樹木や茂みを掻き分けながら進んでいく。
4人であの飛行物体が落ちた場所へと向かった。
そこはまるで隕石が落ちた後のようなクレーターが出来ており、それの破壊力をこれでもかというくらい物語っている。
クレーターの中心部には、三日月のような刃を持つ数字の8みたいな形をした金色の巨大な武器が地面に突き刺さっていた。
「……これがアタシの武器、ムーンアックスさ」
利香さんは白い歯を見せて笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます