引退の辞
「そう。君がそう思うなら、もう勝手にすれば。如何とでもなるさ」
そう言いつつくるりと向きを変えむこうをむいてしまった彼は、「なる」というより「なってしまう」とでも言いたげであった。
その後ろ姿には「どうせ僕は引退した身なんだからさ」という言いもできぬ寂しさがひどく伝えられてしまう風があった。
せいぜい、現役で頑張れば。応援してるからさ。
ぶっきらぼうにも取れる物言いだが案外その口調に反して語尾には諦め少々入った優しさがむしろ目立っている。
せめて僕が、 そう口走って彼は口を噤んだ。先を促すと、彼はひとつ間をおいてまた喋る事を自ら許す。
「せめて僕が安らかに過ごせるような運営をしなよね、」
それはいと難しいことだ、と官は苦笑した。それは、割と完璧主義で国を運用して来た彼のことだからそれを充たすのは難しいぞ。まず第一、戦はきっと避けがたいというのに、それをも避けろというんだから。
美しい水音。川の流れはのどかであった。この場にそぐわない。だが晴れた空気の澄む日には最適だった。
「美しいとは、陳腐な表現だが、どうだね、ひとつ歌でも詠んでみようか」
そして彼はひとつの短歌をのこした。美しさを詠んだものであった。言葉通り、とても言葉通り。
さらと言い流された歌は、今思いついたものであろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます